昔と今と今と昔


「狭っ、めっちゃ狭っ」

浴室に奏斗の高い声が反響する。

「そりゃーそうだろ……」

昔はよく一緒に入ってたよね、と何気なく奏斗が言い出して、久しぶりに一緒に風呂に入らないかということになった。
高校生になった今、いくら奏斗がちびだとしても男二人が一緒に風呂なんて確実に狭い。だから断ったのに、「俺と一緒に風呂に入るのが嫌なのか」と上目遣いで言われて仕方なく首を縦に振ってしまった。……つくづく俺は甘い。

先に奏斗が入り、次に俺が向かい合う形で入ると大量にあふれ出るお湯。
奏斗の家は土地はそれほど広くはないが(俺の家と比べたら広いけど)、両親の仕事の関係上、ピアノや楽器が並んでいてもなおかつ余裕のあるような広い部屋があったり、楽器を演奏するために防音室があったりと結構な豪邸だ。
風呂も広くて、ひとりならばゆったりと足を伸ばしてリラックスできるんだけどな……。今の俺らは、体育座りで向かい合ってる状態。狭いって笑いながら足伸ばそうとすんなこの野郎。

少しでも体を動かそうものならお湯があふれるからとなるべくじっとしてたのに、奏斗がちょくちょく動くせいでお湯がどんどんこぼれていく。上がったらお湯どのくらい残ってるんだろうか。

「水鉄砲とか持ってくればよかったな」
「水鉄砲って、お前なー」
「多分捨ててなくてとってあったと思うんだよねー」

確かにお前の家の風呂は広いけど、成長しきった男二人が遊ぶには狭いだろ。

そういえば小学生の頃は水鉄砲とか持ち込んで遊んだっけな。シャンプーをたくさん入れたら泡風呂になるんじゃないかとか馬鹿なこと言い出して実行して怒られたこともあったっけ。一応俺はやばいことになるんじゃと思って止めたけど、好奇心旺盛な奴には意味がなかった。
昼間さんざん遊んでるのに風呂でもさんざん遊んで長湯しすぎてのぼせたことも何度かあった。あの頃の体力は計り知れない。

「しかしほんと狭いね。昔はもっと余裕あった気がするんだけどな」
「当たり前だろ、お前だってあの頃と比べたらでかくなったんだし」
「なーんか腹立つ言い方だなー?」

笑いながら息を吐く奏斗の頬がほんのり上気していてすごい色っぽかった。体が熱いのは現在進行形で風呂に入ってるからだと心の中で言い訳してみる。
しかし毎日筋トレしてる割には奏斗の体は貧相だと思う。触れば固いんだけど、パッと見筋肉なんてまったくついていない。

「……なに?」

ふと膝の上で組んでいた奏斗の腕を掴む。固いけど、やっぱり細い。変わってないなと思ったら口から出ていたようで、足を思いっきり蹴られた。

なんか、笑えるんだよな。あんな力強いドラムを叩く奴の体が、こんなに貧相だなんて。細くてもその分中身はいろいろ詰まってるんだけどな。よくこんな体で、あんなビートが刻めるよなって。握力と腕力は半端ないけど、腕も細ければ手も小さいから。

「何にやにやしてるの? やらしーことでも考えてるの? うわスケベ」
「俺だって健全な男子高校生だしな」

というのは鳴海の受け売り。好きな奴と一緒にいて考えないわけがない。

それもそうだな、と言って奏斗は笑った。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -