Summer Holiday Now!!


 目が覚めて、セットしたはずのアラームが鳴らないからまだ早いんだろうなとぼんやりする頭で考えた。部活のおかげで規則正しい生活が身についてるからか、いつも目覚まし時計が鳴るより一瞬早く目が覚めるおかげで寝過ごすことはない。

 時間が気になって眠い目をこじあけて頭の上にある目覚まし時計に手を伸ばす。ほんのり部屋が明るいから明け方なんだろうと思いながら時計を掴んだ腕を引く。

 ……六時、を少し過ぎた頃。早く起き過ぎた。夏休みだし、昨日いつもより遅く寝たからまだ眠い。
 隣でまだ寝ている音哉を確認して、俺ももう一回寝るかと時計を戻して目を閉じた。

 ……んだけど、さっきあれだけ眠かったのになんでかすっかり目が覚めてしまったらしく、十分くらい粘ってみたけど全然寝られそうにない。……眠くはあるんだ、でも寝られない。でも意識ははっきりしてて、なんか変な感じ。

 諦めて体を起こす。音哉はまだ寝てるし、朝ごはんまでどうしようかな。軽く筋トレしたいけど音哉起こしちゃうかもだし。

 することもないから音哉の寝顔をじっと観察する。……普段の音哉はかっこいいけど、寝顔はちょっと幼いかも。こんな無防備なとこを観察できるのは幼なじみの特権だよね。
しばらく音哉の寝顔を眺めた後、こっそり寝顔を携帯で写真におさめる。これで音哉の写真がまた増えた。えへへ、幸せ。

 音哉も俺の写真持ってたりするのかな。俺の知らない間に撮られてたりするのかな。そしたらうれしい。知らない間に写真撮られて嫌じゃないのって? 恥ずかしいとこじゃなければ好きな人だったら俺は全然嫌じゃないよ。

「……かなと?」
「んぎゃっ!?」

 音哉フォルダを眺めて幸せに浸ってたら、いつの間にか音哉が起きてたらしい。いきなり呼ばれた名前に思わず叫んでしまった。

「驚かせてごめん。起きてたのか、と思って」
「い、いや……。びっくりしたけど大丈夫。おはよ、音哉」
「おはよ、奏斗」

 起きて欠伸をする寝起きの音哉は最高にエロいと思う。髪下ろしてるからね。こんな音哉が見られるのも俺だけ……じゃないな、合宿とかで何人か見てるか。ちょっと残念。

「いつから起きてたんだ?」
「ついさっき。六時ちょっと過ぎくらいに目が覚めちゃって」
「早いな」
「いつもの癖かな」

 カーテンを開けて、布団を畳み始めた音哉を手伝う。

 隣にベッドあるじゃん、て突っ込みたいかもしれないけど、お泊まりの時はひとつの布団で一緒に寝るのが楽しみだから。昔からずっとこうしてきたから、別々に寝るのはたぶん落ち着かなくて、音哉はどうだか知らないけど俺は無理。

 音哉がドアを開けて、ふわっと漂ってきた朝ごはんのいいにおいに思わずふんふんと鼻を鳴らしてしまう。朝ご飯は目玉焼きかな、卵焼きかな。お腹空いた。

「先顔洗ってこいよ。ほら、タオル」
「あ、ありがと」

 音哉からタオルを受け取って、下におりる。朝ごはんの準備真っ最中の音哉のお母さんに挨拶をして、洗面所に向かう。

「いただきます!」
「いただきます」

 音哉も顔を洗い終わって、待ちに待った朝ごはん。メニューは卵焼きに鮭の塩焼き。音哉の家の卵焼きはちょっとしょっぱくて好きだ。味噌汁は豆腐とわかめ。

「今日の予定は?」
「特に決めてないけど、どっか行く」
「そう。あんまり遅くならないようにね」

 音哉のお母さんの質問に音哉が答える。今日は俺も家の予定がないから、丸一日思いっきり遊ぶ予定。せっかくの休みだからいろんなとこ行きたいな。

「あー、そうだ、映画見るんだっけか。他に行きたいとことかある?」
「んーそうだなぁ……音哉は? ある?」
「……特には思いつかないな」

 かといってどこに行きたいかと聞かれたらとっさには浮かばないんだけど。いつもこんな感じ。今回も特に用事はないけど楽器屋には行くんだろうな。特に何が欲しいとかはないんだけどね、ついついふらっと入っちゃうんだよね。

「いってらっしゃい、二人とも。楽しんできてね」
「いってきます」
「はい! ありがとうございます! いってきます」

 準備を終えて、音哉のお母さんに挨拶をして外に出る。まだ朝だっていうのにすでに暑い。ほんの少し歩いただけでもう汗がにじんできた。

「今日も暑くなりそうだね」
「……だな」

 駅に着いて汗をぬぐう。熱中症にならないように、と音哉のお母さんがくれたキンキンに冷えたスポーツドリンクは鞄の中ですでにぬるくなっていた。

 改札を抜けて、ホームで電車を待ちながら、まずどこへ行こうか、から始まって全然関係ない話に脱線していくなつかしい流れ。こうやって音哉と一緒にどこかに遊びに行くのは、今じゃ一年に片手で数えられる回数しかないから、今までずっと楽しみにしてた分、今日は思いっきり楽しもうと思う。

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