sweet*scented


たまにやりとりするメールも嬉しいし、電話で声を聞くのも嬉しいけど、やっぱり直接会って顔を見るのがいちばん嬉しいよな。
そして一緒にご飯を食べたり、ぶらぶら話をしながら外を歩くのもいいけどさ、俺としては少しでいいから二人きりでいちゃいちゃできる時間が欲しい。恋人同士といっても俺らは男同士だからその辺でべたべたなんてできないから。本音を言えば手を繋いで歩きたいし、別れ際にはハグとかもしたい。

そんなわけでりっちゃんと久しぶりに会った今、ご飯を食べて俺の部屋にいるわけだけど。

「ねえりっちゃん」
「んー? なーに? なるみん」
「……ごめん、やっぱりなんでもない」
「そう?」

最初はお互いに緊張して言い出せない、触れられないのもいつものこと。前よりはどっちかが行動に起こすまでの時間は短くなったかな。会える時間は限られてるし、次に会えるのはいつか分からないからなるべく多くりっちゃんに触れてたいしね。いわゆる遠距離恋愛ってやつ。そんなに遠距離でもないけどさ。

俺の背中に顔を埋めたままくぐもった声で俺の名前を呼ぶりっちゃん。身長差がほとんどないからりっちゃんが少しでも楽なようにと正座してるんだけど、りっちゃんつらくないかな。本音言うと俺の方は足めちゃくちゃしびれてる。でもりっちゃんが俺の背中に抱き着くのが好きだからさ。遠慮がちに上目遣いで「抱き着いていい?」なんて聞かれたら断れるわけないじゃん?

でもなぁ……俺もりっちゃんのこと抱きしめたいんだよなぁ……。りっちゃんが俺を抱きしめてくれてるのは嬉しいよ? もちろん嬉しい。嫌なわけがない。幸せすぎてもーまんたいですよ。
俺の理想は正面からお互い抱き着く、みたいなのがいいんだけど、りっちゃんは嫌なのかな。俺に抱き着かれるの。

「りっちゃんてさ……背中に抱き着くの好きだよね? なんで? ……あ、嫌とかじゃなくて」
「うん、好き。……こうしてると落ち着くから」
「それならいいんだけど」

少しだけりっちゃんの腕に力が込められたと同時に嬉しさが込み上げる。胸がきゅんきゅんしすぎてそろそろ倒れるんじゃないだろうか、俺。好きな人に抱き着かれてて、しかもこの状態が落ち着くなんて言われたら……。俺もうしんでもいいかもしれない。……あくまでそのくらい幸せってことのたとえだからな! 本気で殺すなよ?

「僕ね、なるみんのにおいが好きなの」
「俺のにおい?」

においと言われて一瞬ドキッとする。昨日ちゃんと風呂入ったし、全身隈なく洗ったはずだし、りっちゃんに会うからって早起きして朝シャンもした。……とはいえ外を出歩いたら夏じゃなくとも汗はかくわけで。
りっちゃんが俺に抱き着いてきたのは部屋に来て五分も経ってない頃だったから汗は完全にひいてないだろうし、もしかしなくてもその時の俺は汗臭かったはずだ。ごめんよりっちゃん……。

「あ、汗臭かったらごめん、な?」
「ううん、全然そんなことないよ」
「ならよかった……。ちなみに俺のにおいってどんなにおい?」
「んー……ユーフォのにおい?」

冗談っぽく言ってくすくす笑うりっちゃんにつられて俺も声を出して笑う。ユーフォのにおいってどんなだ。金属のにおい?

「そういえば、いつか本だったか、テレビだったかで見たんだけど、においをかいで婚活する国があるらしいね。相手のにおいをかいで『心地いい』って感じたら、相性がいいんだって」
「へー。においかぁ……まあ自分が嫌だと思うにおいの相手とは付き合いたいとは思わないよな」

りっちゃんって物知りだよなぁ。そんな国があるのか。相性がいいっていうのはどっかで聞いたことがあるかもしれない。
言われてみれば自分が心地いいと感じるにおいの相手となら一生一緒にいたいとは思うかもな。現に俺――

「僕、こうしてなるみんのにおいかいでると落ち着くから、きっと相性がいいってことなのかな? ……なんて」
「り、りっちゃ……! お、おおお俺も! 俺もりっちゃんのにおい好きだよ! あっもっもちろん、りっちゃんのことも、好き! だし……」

思わぬ告白をされて、その時の俺はとっさに何を返したかはよく覚えていない。普段なら真顔では言えないような、恥ずかしいことを口走ったのはなんとなく覚えてる。この時ばかりはりっちゃんが俺の背中に抱き着いてる状態でよかったなと思った。だって今の俺、絶対情けない顔してる。……おいこら、今いつもそんな顔だろって言ったの誰だよ。

「……嬉しいなぁ」
「ごめん。あーいや、さっき言ったことは嘘じゃない、けど……なんか、その、言ってることめちゃくちゃだったかもしんない……」
「そう? つまり、なるみんと僕、相性は抜群ってことでしょ?」

肩甲骨の間からふと消えた温もり。間違いなく俺の後ろで顔を上げてりっちゃんは笑っているはずだ。
言いたいことはすべて真っ直ぐ伝える、そんなところにも俺は惚れたんだけど。真っ直ぐすぎてやっぱり俺には眩しいというか。

「そうだったらいいな」
「そ、そうだよ! いいにおいって思ったんだから相性ばっちりに決まってる! 俺も、りっちゃんも!」

こうやってむきになって返しちゃうからダメなんだよなぁ俺。少し冷静になって、考えてちゃんと返そうと思うのに。

「……あのね、僕ね、なるみんのそういう必死なとこ好きだよ」
「……え?」
「大丈夫、なるみんの言いたいこと、僕にはちゃんと伝わってるから」

ね? と首を傾げて笑うりっちゃんの笑顔は相変わらず俺には眩しかった。

りっちゃんに一目惚れして、おとやんとか猫柳に協力してもらって少しずつアタックしていった。真っ直ぐぶつかってきてくれたから、りっちゃんは俺のことを好きになったって言ってくれた。先に好きになったのは俺なんだけど、ほんとに俺でよかったのかなぁって時々思う。りっちゃんいい子すぎるから、俺にはもったいないなって。

「ね、今度は前からしてもいい?」
「ま、前から?」

俺の前に移動してきて、言いながら正座するりっちゃん。わけが分からなくてそのままじっとしてたら、えいという掛け声とともにりっちゃんが俺に抱き着いてきた。そこでようやくさっきの質問は「前から抱き着いてもいいか」ってことだったんだと理解した。
ずっとこうしたかったのにいざされると驚きと緊張とで何もできなくなる俺。

「やっぱりなるみんのにおいって落ち着くなぁ」
「……俺も、こうしてるとすげー落ち着く」

りっちゃんが俺の肩に顔を埋めてきたので、俺も真似してりっちゃんの肩に顔を埋める。顔が中性的で髪が長いから女の子に見えなくもないけど、パーカスやってるせいかりっちゃんの体は案外たくましい。腕とかすっごい硬いんだよ、りっちゃん。

ふわりと鼻をくすぐるりっちゃんのにおいに、俺はこれ以上にないくらいの安心感と落ち着きを覚えた。

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