マリンバ・タイムアタック


 今までマリンバがある曲をやる時は、シロフォンを毛糸のマレットで叩いて代用してたから、てっきりうちにはないものだと思ってた。

「和希、マリンバ出すの手伝ってくれる?」
「え、あ、はい」

 だからうさぎ先輩が突然そう言い出したときはびびった。マリンバあるの? この学校に? ……どこに?

 マリンバって、俺の知識が間違ってなければシロフォンのでかいやつだよな? シロフォンの倍くらいの幅があるやつ。準備室にはそんなものなかったし、っていうかほぼ毎日行ってるからそんなでかいものがあったら嫌でも目に入るだろうし、ってことはないと思ってたけど、準備室は狭いからマリンバだけ違う場所で保管してるとか?

 とかいろいろ考えながらうさぎ先輩のあとをついていくと、向かったのはいつもの準備室だった。俺が知らないだけで、ゲームみたいに隠し扉でもあってさらに奥に部屋でもあるんだろうか……なんて馬鹿なことを考えてたら、「はい」とパイプみたいなものを二本手渡された。

「とりあえずそれ持ってってくれる?」
「あ、はい」

 言われるがままにそのパイプを音楽室に持って行く。なんなんだこれ、と思いながら準備室から一歩出た途端、もしかしてマリンバの部品なんじゃね? と気付いた。どこの部品かは知らんけど。

「パイプはさっき持ってったし、側板も持ってったし、鍵盤はこれだし……こんなもんかな」

 うさぎ先輩がぶつぶつ呟いてるのが聞こえて、確信に変わる。うさぎ先輩が手に持ってるかたまりの毛布がめくれて見えてる茶色いのは鍵盤だろうし、俺がさっき運んだのはスタンドっていうか足の部分だろうし、間違いない。

「びっくりしたでしょ」

 さっきの毛布のかたまりから鍵盤を出しながら、俺のほうを見てうさぎ先輩がふふっと笑う。びっくりしたどころじゃない。っていうか、まずうちにマリンバがあったことがびっくりだ。

「マリンバって解体できるんですね……」
「大きいからね。大きい学校ならそのまま置いておけるんだろうけど。小学校はそのまま置いてあったなー」

 ああ、そういや小学校にあったな、マリンバ。多分。俺の通ってた小学校でもそのまま置いてあった。その頃はまだ興味なんてまったくなかったから、シロフォンもマリンバも見分けどころか名前も知らなかったけど、五台くらいあった気がする。今じゃ木琴って言うのはなんか嫌だ。

「組み立てるの大変そう……」
「慣れればそうでもないけど、組み立てるだけで疲れるよね」

 だろうな……。そりゃ楽器があってもシロフォンで代用するよな……。組み立てるのは初めてだけど、いちいち組み立てたり分解してたりしたら大変だし、疲れるだろうし。他の楽器を出すのですら、楽器が多かったらそれだけで大変だしな。

 先輩に教わりながら、二人でマリンバを組み立てていく。他の先輩たちが手伝ってくれないのは、いずれ俺が慣れなきゃいけないからだ。意地悪してるわけじゃない。

 まず側板――俺が足って言ってた部分な――にそれぞれパイプを差し込んで、そのパイプを結合させる。次に、そこに鍵盤を乗せる枠と共鳴パイプを入れる。枠は半分に折れてるから真っ直ぐにして、共鳴パイプは全音と半音のがぞれぞれ二つに分かれてるから、それを結合してから。最後に鍵盤を乗せて、枠にひとつずつはめていく。こう説明すると簡単そうだしそんなに時間もかからなさそうだけど、実際やると先輩が言った通りかなり重労働で疲れる。慣れればもう少し楽になるのかもしれないけど、慣れる気がしない。覚えられるかな……。

「大丈夫? 疲れたでしょ?」
「はい……。これ、片付ける時分解するんですよね?」
「うん。片付けの時はまたよろしくね」

 あと数時間したら、せっかく苦労して組み立てたのに分解しなきゃいけないのか……。先輩たちも手伝ってくれるだろうけど、これから毎日組み立てて分解してをやらないといけないと思うと考えただけで疲れるな……って考えてたら、いのちの名前が聞こえてきて、マリンバの優しい音とハーモニーに少しだけ癒された。

(うさぎ先輩、やっぱり鍵盤上手いな……)





いのちの名前〜「千と千尋の神隠し」より
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