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 響介と拓人

部活動を終えて、特に大会なども控えていないので部員は全員帰ったものだと思っていたら、音楽室にはまだ明かりがついていた。先生でもいるのだろうかと気になった響介が中を覗くと、そこに残っていたのは。

「千鳥、こんな時間まで何やってるの?」
「……あぁ、倉鹿野か」

机の上にはノートが広げられていた。行頭をきっちりそろえてあるのが拓人らしい。組曲という単語が目に入ったので、整った字で羅列されているのはおそらく曲名だと響介は気付いた。いくつかは二重線が引かれている。
もう半分の白紙のページの上にはスマートフォンが置かれていて、そこから控えめな音量でおそらく吹奏楽であろう曲が流れていた。

「アンコンの曲で悩んでてな」
「アンコンかー。難しいよね。何より時間が」
「それが一番難しいよな」

アンコンことアンサンブルコンテストでは、吹奏楽コンクールと同様に規定で演奏時間が決まっており、その時間を超えると審査対象とならず失格になる。吹奏楽コンクールでもこの規定で決められた演奏時間というのが大きな壁だったりする。時間内に収まる曲を探したり、収まるようにカットしたり編曲したりといろいろと大変だ。先生は時間のことを考えて曲を選んでくれているのだろうが、なんとか形になってきた時に時間を測ってみて、もし超過していた場合はどうするのだろう、と響介は考えたことがある。

「アンコンの規定時間って五分だっけ?」
「そう。五分って短いよな。いいなと思う曲は七分とか八分とかで」
「あー、あるある。あと、五重奏がやりたいのに探すと六重奏や七重奏しかなかったりね」
「そうそう」

探している時に限ってなかなか見つからないのは、曲でもそう。探そうと思うとなかなか条件に合う曲は見つからない。こちらも編成が合わなければ編曲するという手はあるが、編曲だって簡単なことではない。

「木管は詳しくないから力になれなくてごめんね」
「俺だって金管は詳しくないし、逆に倉鹿野が悩んでたら力になれないだろうから気にするな」
「いっそ、八分の曲だったらそれを倍のテンポでやればいいんじゃない?」
「いやいや、いろいろと駄目だろ」
「やっぱり?」

二人の笑い声に合わせて、拓人のスマートフォンから流れる曲がちょうど盛り上がりを見せていた。

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