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 鈴々依と舞(と和希)

今日は小学校の音楽室を借りての練習だった。

管楽器は普段自分が使っている楽器を持ち込んでの練習だが、大型の打楽器は小学校のものを借りることになっていた。名前は同じといえど、普段使っているものとは違うそれに、パーカッションは慣れるまでに少々時間を要する。しかしほとんどの本番では借用楽器で演奏することになるので、和希以外はもう慣れっこだ。

(ペダルじゃないのかぁ……)

隅のほうに置かれたティンパニを見て、鈴々依は肩を落とす。ペダル式ではない手締め式のティンパニは今まで何度か使用したことがあるが、中高と学校のティンパニはペダル式のもので、慣れていないので扱いづらい。

せめてもの救いは、今練習している曲に、グリッサンドや曲中で音を変えなければならないものがないことだった。音を変えるのはともかく、ティンパニでのグリッサンドは、ペダル式であればペダルを踏むことで音を変えることができるが、手締め式のものだと他の人の手を借りてネジを巻いてもらわなければならない。
考え方を変えれば、自分のために演奏中に皆が手を貸してくれるということでもあり、自意識過剰系乙女の鈴々依がそんなことをされたら舞い上がるのは言うまでもない。

「一度順番通りに通します。気になったところがあれば止めますが、一度全て通します」

一曲合奏を終えた後、そう言うなり指揮棒を構えた源内先生を見て、鈴々依は慌てる。先ほどの曲と、これからやる曲では使用する音が違うので、音を変えなければならない。普段、学校での練習ではペダル式なので数秒でできるが、今日はそれができない。手締め式のものは音階を変えるのに六個から八個のネジを手で絞めたり緩めたりしなければならないので、時間がかかる。

(すぐにティンパニの出番があるのにどうしよう……! 間に合わない!)

慌ててネジを締めようとするが、慌て過ぎてポケットからチューナーを取り出す際に落としてしまった、その時。

「源内先生、少しだけ待ってもらえますか? ティンパニの準備がまだなので」
「それは失礼。では、準備できたら教えてください」

鶴の一声を上げたのは、隣の舞だった。鈴々依の視線に気付いた舞が、一歩こちらに近づいて耳打ちする。

「ゆっくりやっていいよ」
「はっ、はい……ありがとうございます……」

同じく小さな声でお礼を言うと、鈴々依はティンパニのネジを締める作業を再開する。

そのやりとりは舞の隣の和希にはしっかり聞こえていて、また鈴々依の表情もしっかりここから見えていて、ほんのりと鈴々依の頬が赤く染まっていて、和希は顔をしかめた。

(さすがに女相手にまで勘違いするとは思わないけど……まさかね……いやまさかな……)

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