SSS置き場 | ナノ


 山吹と冴苗

委員会が終わって部活に向かう途中、トランペットの音が聞こえて足を止めた。楽器をやってる人なら分かると思うけど、ある楽器の音だけ大きく聞こえるのを差し引いても、他の楽器の音よりはっきり聞こえるってことは、きっと近いどこかで茅ヶ崎先輩が吹いているんだろう。茅ヶ崎先輩の音は真っ直ぐだからすぐに分かる。音の出だしから同じ音量で、迷いがない。ぱーん、って、最初から最後まで真っ直ぐ伸びる。おれと榎並先輩は出だしが小さくて音が安定するまでに時間がかかって、源内先生が指揮をする時は毎回注意される。

早く部活に行って練習したいのはやまやまだけど、どこに茅ヶ崎先輩がいるのか気になって窓から顔を出してみる。こっち側から聞こえるってことは、ほぼ間違いなく部活をさぼっていると思っていい。平日の練習は特別教室が割り当てられることがほとんどだから、今おれがいる普通の教室が集まってる校舎側から聞こえるってことは、高確率でそう。

まさか屋上で吹いてるのか、と思ったけどそれはない。だって屋上は立ち入り禁止だし。それだけなら入ってる人もいるだろうけど、鍵がかかってるからそもそも入れない。換気のために開けている窓から音が漏れてここまで聞こえるんだろう。どこの教室なんだか検討はつかないけど、きっとそうだ。

「だからぶっきーは石頭って言われるんだよ。おかたいんだから」

っていうのを榎並先輩に話したら、大きなため息を吐かれた。石頭なのは認めるけど、トランペットの人たちは少し能天気すぎると思うんだ。

「れんれん先輩がいるのは屋上でほぼ間違いないよ」
「でも、屋上って鍵かかってるじゃないですか」
「あんたは一年だから知らないんだろうけど、合鍵持ってる奴いるし、そうじゃなければヘアピンとかでかちゃかちゃってやって開けるのあるじゃん」
「ピッキングですか?」
「そうそうそれそれ。それで開けて入ってるんだよ。……って、つい言っちゃったけど、先生に言わないでよね」
「別に言うつもりないですよ」

合鍵とかピッキングとか、びっくりしたけど先生に告げ口するつもりはない。したところで何のメリットもないし。先生に言いに行くのも面倒だし。

というか、部活をさぼっててっきり遊んでるのかと思ってたから、トランペットを吹いてたのは意外だったな。吹くんなら部活に来て吹けばいいのに。そうすれば菊池先輩だって怒らないだろうに。それに、あの時二階にいたおれにはっきり聞こえたってことは、他にも聞こえてる人はたくさんいるだろうし、ばれてるんじゃないの?

そういうところが能天気だよなって思うんだけど、おれが石頭だからなんだろうか。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -