▼ 鳴海と音哉と律と奏斗
鳴海が唐突に宝島をやりたいと言い出し、音哉はこの人数と編成でどうするんだと真面目に突っ込んだ。律は何も言わず、手に持っていたマレットで軽やかにグロッケンを叩いた。吹奏楽をやっている人なら耳になじんでいる、宝島のメロディ。少し遅れて、アゴゴベルを引っ張り出した奏斗がそれをアドリブで叩きはじめる。
即興で演奏し始めた律と奏斗を、鳴海と音哉はあっけにとられた表情でしばらく見つめていたが、奏斗が跳ねるようにアゴゴをリズミカルに叩きながらにかっと歯を見せて笑ってみせると、よっしゃとそれぞれ自分の楽器を構えた。
伴奏が加わり、四人だけの宝島は少しだけ賑やかさを増した。鳴海もとりあえずメロディを吹き始めたため、律はグロッケンを叩く手を止めて代わりにトライアングルを手にする。クローズ、クローズ、クローズ、オープン、クローズ――トライアングルを吊り下げている左手も、ビーターを持つ右手も忙しく、けれどリズミカルに、軽快に動く。時々リズムが乱れるのはご愛嬌。
ドラムのフィルインは奏斗がそこだけスネアを叩き、それ以外はアゴゴを、メロディは鳴海のユーフォと律のグロッケンが追いかけっこして、音哉のチューバが唯一ベースラインを担当し、それでもなんとなく曲として成り立っていた。
パーカッションソロは奏斗のアゴゴ、律のトライアングル、鳴海が混ざりたくてとりあえずできそうだと思ったマラカス、一時パーカスだった音哉はサンバホイッスルをどれもアドリブで演奏した。
トランペットとトロンボーンのセッションのところは、ユーフォとチューバで。ところどころ音を外しながらも見事なコンビネーションを魅せた二人に奏斗はブラボー! と声を上げ、律は興奮のあまりトライアングルをロールしてその感動を二人に伝えた。
途中、誰かが間違えることがあってもなんとか通り、最後だけは全員しっかり決めた。指揮者もいないのに、示し合わせたわけでもないのに、そこだけぴったりと縦の線が合っていて、終わってすぐに四人は同時に笑った。
「即興でもなんとかなるもんだな!」