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 鳴海と奏斗

「奏斗はさ、ななちゃん先生と源内先生の指揮、どっちが好き?」
「……その質問さぁ、めっちゃ困るんだよね」
「だよなー。俺も困る」
「ならするなよ!」

ななちゃん先生こと観田先生と源内先生の指揮、どちらが好きか。
この質問は、ほとんどの部員にとっては非常に頭を悩ませる質問だ。人柄でいえば観田先生が圧倒的に人気だが、指導の正確さでは源内先生。どちらにもいいところ、悪いところがあり、どちらがいいとは言い切れない。

「ななちゃん先生はポップスだとテンション上がるけど、指揮ぐっちゃぐちゃなんだよなぁ」
「途中で踊り出すしな。ドラム大変そう」
「普通に振ってても、いちにーさーんしとか、テンポがぶれるんだよ。まあ無視して俺が勝手に引っ張ってるけど」
「お前のドラムの安定感すげーよ。あと安心感」
「そりゃどーも」

テンポは基本的にドラムに任せるよ、と合奏の前に度々言うが、本当にドラム任せでもはやただ前に立って棒を振っているだけで、指揮者という役割を果たしていない。しかし、なぜか楽しくなってきてテンションが上がる。それが観田先生。定期演奏会の第二部やアンコール、文化祭などには適任だ。
もうひとつ、観田先生が好かれるポイントは、褒めて伸ばすタイプだということ。悪いところを指摘する時も、決して頭ごなしにダメとは言わない。しかし悪くいえば甘いのである。

「源内先生は厳しいし、言い方もきつい時あるけど、言ってることはその通りなんだよな。正論でもそこまで言うか!? って時あるけどさー」
「そうそう。あの先生がうちに来てから県大会止まりだったのが支部大会、調子のいい時は全国まで進めるようになったし、実際いい先生ではあるんだよ。強い学校って指導者で決まるし」
「でも厳しすぎるよな。つーかたまにめんどくさい」
「そうなんだよ……そこなんだよ……」

言っていることが正しいのは分かるのだが、いかんせん言葉には大なり小なり棘があり、時にねちねちとしつこい。それさえどうにかなればいい先生なのに、と時々部員たちは愚痴っている。
大会前に先生がヒステリーを起こして部長と副部長、パートリーダーが謝りに行くのはどこの学校でも恒例行事だが、そのヒステリーの起こし方が凄まじい。それを知らない一年生は、泣き出す者も少なくない。二年生、三年生でさえ一度経験していても怯えてしまう。
褒めて伸ばす観田先生に対し、源内先生は鞭と鞭といったところだ。飴など与えてはくれない。

「足して二で割ればちょうどよさそうなんだよなー」
「まあ、適材適所ってやつ? 大会の時は源内先生っていうよき指導者がいるし、ポップス系ははななちゃん先生っていう最高にテンション上げて盛り上げてくれる役がいるし、いろんな曲やる吹部にはいいんじゃない?」
「そう考えるといい部なのかもな。人間誰しも長所短所はあるんだし、そこをちゃんと補えるようになってるのってすごくね?」
「うちの吹部ってそこがすごいよな。部員もいい感じにタイプばらけてるし」

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