SSS置き場 | ナノ


 優弦と美琴

名前のせいで半ば強制的に決まった弦バスことコントラバス。後輩の花樹さんのおかげでようやく好きになれたけど、エレキベースだけは好きになれそうになかった。吹奏楽で弦バスを使うだけでも無知な自分からすると衝撃的だったのに、ベースって、ベースって……。吹奏楽部だよね? 軽音部じゃないよね? ベースって、軽音部で使うものじゃないの……?

エレキベース自体はむしろかっこいいなーと思うんだけど、バンドって僕のような人間とは無縁の、別の世界の住人がやるものだろうから、僕にはそんな楽器は似合わないなって……。似合う似合わないで言ったら、楽器自体僕にはどれも似合わないんだろうけど。

三年生になって、引退まであと少し。もともと体が弱くてなかなか部活には来れなかったけど、弦バスを好きになったのも結構最近だけど、ベースも恥ずかしかったけど、楽器を触れなくなるのも寂しくなるなあ……なんて、感傷的な気分に浸り始めた時。

「山羊野と花樹、どっちかピアノ弾けたりしないか?」
「ピアノですか? 私、少しなら弾けますけど……」
「よかった。突然で申し訳ないんだが、『風になりたい』でキーボードをやって欲しい」
「私でよければいいですよ」
「ありがとう……花樹がピアノ経験者で助かったよ。弦バスは二人いるし、頼むとしたら弦バスしかない! って思ってたから……」

本番まであと少しだっていうのに、すぐにいいですよって言える花樹さんはすごいなあ……って他人事のように感心してたけど、ベースが僕ひとりになるってことに気付いて冷や汗が噴き出た。

「山羊野先輩、ベース頑張ってくださいね! 私、楽しみにしてます!」

当日、体調が良くても悪くても体調不良を理由に休んでしまおうか。なんて考えてたら笑顔の花樹さんの言葉が胸に突き刺さる。花樹さんは本当に弦バスとベースが好きで、プレッシャーをかけるために言ってるわけじゃなくて、純粋に応援してくれてるのがよく分かるから余計にぐさっとくる。馬鹿なこと考えてごめんなさい。

「あ、でも、無理はしないでくださいね?」

そしてさらに気を遣わせてしまって申し訳ない。いつも彼女には迷惑をかけたり、気を遣わせてばっかりだ。

僕の弦バスなんて、彼女と違って高校に入ってから始めたし、体が弱くて練習に来れない日も多くて、彼女と比べたら下手くそだけど。
今まで迷惑をかけた分、たった一曲だけど、高校生活最後の思い出に頑張ってみようかなと決心してみた、高校三年生の初秋。

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