SSS置き場 | ナノ


 拓人と連と響介

「茅ヶ崎、お前な、1stを後輩に押し付けるのも大概にしろよ……。困らせたら可哀想だろ……」
「そうだね! ごめんね! ごめんねごめんね後輩!」

口調からして、連が拓人の小言を聞いていないのは明らかだった。もちろん反省もしていない。
熊谷が持ってきたせんべいをばりばり音を立てて食べながら漫画雑誌を読む連に、拓人はもう一度口を開いたがどうせ何度言っても連の耳には入らず右から左へ、もしくは左から右へただ通り過ぎていくだけだと諦めた。

ちなみに本来であれば授業に不必要な物――例えば、ゲームや漫画を学校に持ってくることは校則で禁止されているが、先生の目を盗んで持ってきている生徒は多く、拓人も完璧に校則を守っているといえば嘘になるので、そこは目をつむっている。

「押し付けるのはよくないけど、三年生が1stを吹かなきゃいけないっていう決まりもないんだから、そんなに怒らなくても」
「そうだぞ! 一年や二年が1st吹いたっていいだろ! 他の学校は違くても、うちはうちでいいじゃん! ドラムだって二年のちっこいのがほとんどやってるしさあ! パーカスだけ特別なの!? それってずるいよ!」

珍しく響介が口を挟んできた。いつもなら、またかという表情で少し距離を取ったところで苦笑しながら拓人が小言を言うのを聞いているだけだ。
味方をつけた連は、ここぞとばかりに吠える。

「俺もそう思ってるよ。パート内で話し合って、全員が納得したんだったら誰がどのパートをやってもいい。けど、茅ヶ崎の場合は勝手に決めるから、特に一年の梓が困ってるんだよ……」
「そ、そっか……そうだよね……お互い納得しないとダメだよね……」
「倉鹿野は責めてないぞ」

響介は前に一度、この曲はどうしても2ndが吹きたいからと同じホルンの後輩の理澄に頼み込んで、渋々交代してもらったことがある。そのことを拓人の言葉で思い出して、胸が痛くなった。

「大丈夫だって、あいつ本番ではちゃんとやってくれるから! あの一年、真面目でいい子だからさ。ちょっと頭固いけど」
「……そういう問題じゃない」

トランペットパートは大変そうだなぁ、と響介は他人事ながら思うことしかできなかった。

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