SSS置き場 | ナノ


 山吹と冴苗

茅ヶ崎先輩が部活に来ない日の合奏は困る。パート練習は来ない日のほうがたぶん多いから慣れた榎並先輩がどうにかしてくれるからいい。

「ってことで、ぶっきー1stよろしく」
「嫌ですよ。何が、『ってことで』なんですか」

何が困るかって、1stの取り合いならぬ押し付け合いが始まるからだ。
基本的に1stが茅ヶ崎先輩、2ndがおれ、3rdが榎並先輩なんだけど、合奏で1stがいないといろいろ困るから茅ヶ崎先輩がいない日は誰かが代わりに吹かなきゃならない。茅ヶ崎先輩の腕は純粋にすごいと思うし憧れもするけど、人間としてはどうかと思う。楽器の才能がある分欠落してるんだろう。

「一年が1stやるって聞いたことないですから! こういうのって普通先輩が1stいくもんでしょう!?」
「あんたの中学ではそうだったかもしれないけど、うちはうち、よそはよそ! ほら、なんとかに入ってはなんとかに従えって言うでしょ?」

郷に入っては郷に従え、ね。そのくらい覚えてろよ……。つーかおかんかよ。

「あたし万年3rdだから2ndのぶっきーが1stいくのが妥当でしょ」
「おれだって万年2ndです! 榎並先輩そう言いながらこの間1st吹いてたじゃないですか! 茅ヶ崎先輩の代わりに!」
「この間はあんたが入部してすぐだったから! だってあたし3rdだし!」
「この曲そこまで難しくないし、少し前に流行った曲だし、高い音もないし、このくらい簡単ですって」
「だったらますますあんたでいいじゃん」

……しまった、墓穴掘った。

この曲、難しくはないんだよ。だから別に1stやったっていいんだよ。けど、一年が1stって、いくら本番じゃないとはいえ、一度だけ代わりにといっても他のパートの人に変な目で見られそうで怖いし、トランペットなのに目立ちたくないって意味分かんないけど目立つの嫌だから主旋律の1stはやりたくない。

ぐだぐだ言い争ってても埒が明かないからと結局じゃんけんで決めることになって、結果なんとおれが1stになりましたとさ。なんでこういう運はいいんだろう、おれって。

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