▼ 拓人と舞
誰かが曲を演奏し始めるとプチ合奏が始まる、というのはどこの学校の吹奏楽部でもあるあるネタだと思う。
うち――西高吹奏楽部も例外ではなくて、時々唐突にプチ合奏やアカペラが始まる。主犯は大体金管。
楽器を取りに準備室に入ったら、今日も今日とてトランペットが曲を吹き始めた。
「あ、この曲なんだっけ」
「あれだよ、今やってるドラマの主題歌」
「あぁ、それだそれ」
菊池に通じたからまあいいとして、曲名は思い出せてなかったりする。
準備室から音楽室に戻る頃には、トロンボーン≪有牛≫とサックス≪茅ヶ崎弟≫、パーカッション≪猫柳と兎田≫が加わって賑やかになっていた。
誰かが演奏し始めるとプチ合奏が始まる、っていうのは演奏したことのある曲に限ると思うんだけど、パーカスはともかく、それ以外の楽器が演奏したことのない曲を即興でアンサンブルしている光景は他の学校でも見られるものなのだろうか。
うちではよく、ちょうど放送しているドラマやアニメ、映画の主題歌をこうして即興でアンサンブルしている。
そんなこと考えている間にホルン≪倉鹿野≫とユーフォ≪木之下≫が加わって、演奏は更に賑やかさを増していた。
「耳コピできるのってすごいよねー。あたし無理」
「俺も得意じゃないし、何度か聞いてすぐに吹けるのはすごいと思う。しかも即興でアンサンブルにするなんてな」
「だよねー。みんなすごいわ」
楽譜もないし、即興だから時々音を外したりもするけど、それでもここまでできたら大したもんだと思う。
今日もうちは平和だ。