▼ 連と鴨部
「おっ、お前もサボり?」
「心外やなぁ、俺は休憩や、休憩」
普段は立ち入り禁止になっている屋上へ忍び込むと、鴨部の姿があった。クラスは違うが、部活は一緒なのでお互い顔は知っていた。しかしパートも違えば二人とも部活に顔を出すことはあまりなく、よくは知らない相手だ。
「よく来んの? 屋上」
「たまに来るわ」
「ふーん。お前真面目そうだから意外」
「俺は真面目やで? 成績優秀で品行方正の模範生やし。先生の評判はええで?」
「もはんせーが立ち入り禁止の屋上に入っちゃっていいの?」
「先生の前では、やけどな。一個も校則破っとらん奴なんておらんやろ」
「まーなー」
漫画ではよく、屋上でサボったり、告白の場所だったりと夢のある場所として描かれているが、現実では諸々の理由で立ち入り禁止になっている学校がほとんどだ。西高も例外ではない。立ち入り禁止でも連と鴨部のようにこっそり忍び込んでいる生徒がいるのも例外ではない。
鴨部の隣に腰を下ろそうとして、鴨部のスクールバッグからフルートの入った楽器ケースが覗いているのが見えた。
「楽器吹くの?」
「あほちゃう? 今吹いたらばれるやろ?」
本来なら立ち入ってはいけないここにいることも、部活をさぼっていることも。あやうく言いかけるところだった。
「あ、そっか。でもフルートっていいよなー。楽器ちっちゃくて」
「俺がフルートにした理由はそれやで」
「マジかよ! ま、そーいう理由もありかもな。あと家で練習できるのもいいよな。ラッパなんて家で吹いたら壁ドンどころじゃないしな」
「ほんまフルートっていいとこどりの楽器よな。目立つし、楽器軽いし、ちっこいし、優雅やし」
「けどオレはやっぱトランペットが好きだな! かっこいいし!」
「性格からしてトランペットやもんな」
「だろお?」
……ここまで会話しておいて、名前を思い出せないままだった。