SSS置き場 | ナノ


 和希と奏斗

「お前さ、間違ったらどうしようってためらってるんだろ」

……先輩たちにはどうしてこうもなんでもお見通しなんだろうか。
そうです、と素直に言うのもなんとなく恥ずかしくて口ごもる。

「案外周りって自分が思ってるほど失敗なんて気にしてないというか、気付いてないことも多いよ?」

それは菊池先輩にも言われた。だから遠慮なく叩けと。まずは音を出せと。確かにその通りで、何事も最初から失敗を恐れてたら何もできないし、失敗は成功の基ってことわざもあるしその通りだよな、とは思う。

……けど、パーカスは他に同じ音を出している人がいなくて、つまりオンリーワンで、常にソロみたいなものだと前に猫柳先輩とうさぎ先輩が話してるのを聞いてから、どうにも間違うのが怖かった。だってやっぱ目立つし。たとえタンバリンでも、トライアングルでも、クラベスでも、それを演奏してるのはこんなに人数がいる中でたった俺一人なのだ。そう考えるとパーカスの人ってやっぱすげえわ。

「練習でできなかったことが本番でできるなんてそんな奇跡、なくはないけどめったにあることじゃないから期待しないほうがいいよ?」
「なくはないってことはあるんですか」
「たまにあるよ。たまーにね。ちょっと違うけどコンクール当日に今まででいちばんいい演奏ができるとか。でもめったに起きないから奇跡なのであって」

そりゃそうだ。練習でできなくても本番でできるんだったらそもそも練習なんかしないしな。本番に強いタイプだとは思ってないし。

「ていうか、聞く人は楽譜見ながら聞いてるんじゃないんだしさ、間違っても分かんないってそういうこと」
「……言われてみれば確かに」
「だから『あ、やべ、間違った』って思っても、ドヤ顔で叩いてればいいんだよ。『あっ』みたいな顔したら誰だって気付くけど、平然としてたら気付かないっしょ」
「……確かにそうですけど、そういうもんなんですか?」
「そういうもんなの」

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