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 奏斗と冴苗

世代平均よりも身長が低いということは、中学生になったあたりからずっとコンプレックスには感じているが、日常生活を送る上ではそれほど困ってはいなかった。

唯一困ることといえば、

「届かないの? とってやろっか? これ?」
「げっ」

――高いところにあるものに手が届かないくらいで。

ひょいっと自分には到底届かない高さに手が伸びてきたかと思えば、いつの間にか自分の背後に立っていたのはトランペットの入ったケースを片手に提げた榎並冴苗。

「げってなに、げって。失礼な。とってやったんだから感謝ぐらいしなよね」
「あーうん、ありがと。びっくりしただけだよ」

奏斗は冴苗という人間は嫌いではなく、むしろノリが合うタイプなのだが、女子ながらに持っているその高身長にだけは嫉妬していた。奏斗が冴苗くらいの身長だったら、冴苗が奏斗くらいの身長だったら、お互いちょうどよかったくらいだ。

奏斗が高いところにあるものが取れない時にこうして取ってくれるのはありがたいのだが、何かが腑に落ちない。感謝の言葉は述べるが、しばらくもやもやしている。

「あんた身長いくつだっけ」
「158……いや、160」
「なんで言い直したし。158かー、女子だったらちょうどいいくらいの身長なのにね」
「女子だったら、女子だったらね。女子だったら。……榎並は?」
「あたしは170だったかな。微妙に伸びたり縮んだりしてるけどそのくらい」

高いといってもせいぜい160後半だろう、いや、そうであって欲しい。そう思っていたのに、まさかの数値で奏斗はむせる。

「身長交換しようぜ」
「交換できるならしたいくらいだよ……。女で身長高いのって嫌だよ」
「男で身長低いのも嫌だよ……」

身長が高ければ高いで、もしくは低ければ低いでコンプレックスにはなるのだろうが、自分が欲しいと思っているものを持っている人は羨ましい。

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