▼ 響介と有牛
「倉鹿野の学校の吹部って部員少なかったの?」
「うん。小さい学校だったからね。なんで急にそんなこと聞くの?」
「前に金管全部やってたって言ってたから、そんなに部員いなかったのかなって思って」
俺は中学でも吹奏楽部で、一応パートはホルン……だったけどなんだかんだと金管は全部やってた。トランペットが吹けるなら運指がほぼ一緒だからユーフォ吹けるでしょ、とか、マウスピースの大きさが一緒だからトロンボーンいけるでしょ、とか、ユーフォが吹けるようになったならチューバいけるでしょ、とか。無理です。
でも金管ならなんでもできる、なんて自慢できることじゃない。ホルンも含めてどれもそんなに上手くないしね……。
「ほんとにそんなに部員がいなかったから、俺以外にも楽器移動させられた人は何人かいたよ」
「この曲トロンボーンが三本必要だからトロンボーン練習して、とかそんな感じで?」
「うーん……そんなに優しくなかったかな」
「んじゃどんな感じだったの?」
「そうだなぁ、二週間後までにユーフォでこの曲吹けるようにしといて! とか」
「わーお、それはすごいね」
そんな風に言われて、教えてくれる人がいなくてほぼ独学で覚えたのもあるから余計自慢できない。唯一いちばん長く吹いてたであろうホルン以外は使い物にはならないと思う。
とはいえ、自分で言うのもなんだけど、いつまでにできるようにしといてって言われてなんとか間に合わせてたあの時の自分はすごいと思う。この方法って結構スパルタだよね。
「倉鹿野ってただの器用貧乏だと思ってた。ごめん」
「その通りだから別にいいよ……」
刺さるけど否定はできない。楽器以外もそう。多少の得意、苦手はあってもどれも平均前後。それってある意味すごいのだろうか。
「それでもその日まで間に合わせてできるようにしたんでしょ? だったら誇っていいと思うよ」
「なんとかね……けど、ちゃんとできたかっていうと……」
「なんとかでもそれは自慢していいと思うよ。他の楽器も同じ方法で間に合わせたんなら俺は充分すごいと思うし」
「そ、そうかな? そんなこと、はじめて言われたからすごい嬉しい。ありがとう、有牛」
「謙虚なのはいいことだけど、謙遜し過ぎもよくないよ」
有牛って、よくいえばはっきりものを言うタイプ、悪くいえば少し毒舌なんだけど、こうしてちゃんと褒めてくれたりもするんだよね。