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 朔楽と鴨部

定期演奏会が始まるまで、あと数分。

舞台袖で待機しながら、落ち着かない様子で何度も深呼吸を繰り返す朔楽の肩を、不意に誰かが掴んだ。

「うわ……っ!?」
「あんまり大きな声出すと、お客さんに聞こえるで、鳩村くん」
「すっ、すみません……」

とは言ったものの、驚かせたのはそっち――鴨部のほうなのに。

「鳩村くん、緊張しとるやろ?」
「はい……。すごく緊張してます」

素直に答えると鴨部は笑った。鴨部は大して緊張しているようには見えず、おかしいことではないけれどこんなに緊張している自分がなんだか恥ずかしく思えてきた。

「鳩村くん、今まで頑張ってきたやん。……いや俺が言ってもあれか、サボってるくせに何言うとるんって突っ込まれるな」
「い、いえ、そんなことは……」
「鳩村くんは優しいなぁ。突っ込んでええんやで? それにな、ピラミッド型バランスやっけ? そんな名前のなんかがあったやろ? やからフルートはそないに頑張らんでもええんやで?」

ピラミッド型バランスというのは、アメリカの作曲家、フランシス・マクベスが提唱した、低音を土台に、ピラミッド状に中音、高音を重ねていく、吹奏楽の良い響きを狙ったバランスのことだ。

「鳩村くんは常に頑張ってるようなもんやし、もう少し気楽になったほうがええんとちゃう?」
「そっ、そんな、えっと、僕なんて、全然、そんなこと……!」
「……ま、鳩村くんならそないな反応するやろなって思ってたけど。ほんま、鳩村くんっておもろいわー。鳩村くんいじりに来て正解やった」

またくすくすと笑われて、顔に熱が集まるのを感じた。しかし不思議と緊張は取れていた。

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テーマ「推しとの恋」
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