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 冴苗と連

楽器の音や音色には、その人の性格や内面が出る。

あたしはみこと違っておしとやかとは程遠いから、しっとりした曲は苦手だった。しっとりした曲は好きなんだけど、合奏でよく注意されるんだよね。落ち着いた曲×源内先生の指揮はあたしにとって最悪の組み合わせ。ピアノやピアニッシモは苦手ではないんだけどね、それとは別の問題。性格的にやっぱりノリのいいポップスが合ってると思う。

れんれん先輩も同じタイプで、テンポがゆっくりの落ち着いた雰囲気の曲を合奏してる時に、やっときたトランペットの出番でファンファーレばりの音量と音色でぱぱーんって鳴らして合奏を止めたことが何度かある。先生が止めたんじゃなくて、みんなびっくりしたのとおかしいのとで合奏にならなくなってさ。
わざとやってるのか、うっかりやっちゃったのか。れんれん先輩の性格からしてどっちか分からないけど。一度注意されたら二度は繰り返さないのがれんれん先輩のすごいところ。

でも何度やってもトランペットの音だけ浮いてるような気がしてたから、これはみっちりパート練習するしかないな、とパートリーダーじゃないのに思った。れんれん先輩が来ない時仕切るのはほとんどあたしだし、駆り出されるのもあたしなんだよね。一応年功序列でパートリーダーはれんれん先輩。まあやることはやってるから。

もっと柔らかい音を出せって言われたって、トランペットは花形楽器なんだから仕方ないじゃん! ……なんて、源内先生のありがたいきっびしー合奏指導の次の日、めずらしくれんれん先輩がパート練習に顔を出したから一緒に愚痴った。その流れで「だからオレしばらく部活来ないから!」って言われた時にうっかり「はい!」って言いそうになったじゃん。

旅は道連れってことで、もちろんその日の合奏には出てもらった。
一度注意されたことは繰り返さないれんれん先輩だから大丈夫なはず。あたしも今日は注意されないように個人練習は頑張ったつもりだし、曲にのって、柔らかい音を意識する。意識して音が変化するのかは自分にはほとんど分からないけど、意識するって大事。

あと数小節で長い休みが終わって、やっとトランペットの出番。楽器を構えて、周りの音を聞きながら出番を待つ。

ゆったりと息を吸い込んで、ぴったり縦の線が合って、これはいける! と吹いた瞬間に思ったいい音が出た……んだけど。
隣から聞こえたしっとりとした、なめらかな旋律にびっくりして、音符をいくつか飛ばしてしまった。源内先生がこっちを睨んだ気がするけど気にしない。追いついてなんとかカバー。

この曲では2ndを吹いてて、普通、1st、2nd、3rdって順番に並んでるんだけど、つまりあたしの隣は1stで、1stを吹いてるのは。

また長い休みに入った時に、思わず隣を見たら、あたしの視線に気付いたれんれん先輩がピースしながらにかっと歯を見せて笑った。

(こんな音も出せるんだ)

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