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 和希と舞

パート練習や合奏の最中に担当の楽器が変わるのは、パーカスではよくあること。二小節休みがあるから間に合うだろうとか、脳内シミュレーションは完璧でも、実際やってみるとそう上手くはいかない。

「ねえ狗井、あんた、中間部って何もやってなかったよね?」
「……そうですけど」

中間部は拍子が複雑だからと俺にバスドラの楽譜をよこしたのは先輩たちだ。初めて合奏した時に心底よかったと思った。だって絶対落ちるし、そうじゃなくてもついていくのにまだいっぱいいっぱいだ。
というか、こんなことを聞いてきたってことは、嫌な予感がする。

「じゃあさ、四小節だけトライアングルやってくれない?」

げ、と思わず声が出そうになった。ここなんだけど、と菊池先輩が持ってきた楽譜を指さした箇所は、やっぱり中間部。……やっぱりか。

もともとこの曲はパーカスが七人だかそのくらい必要らしくて、人数が足りてなくて、他のパートから引っ張ってくるわけにもいかず、菊池先輩と猫柳先輩、コンマスの千鳥先輩と熊谷部長と先生たちが何度も話し合いを重ねて、あと実際に合奏してみて編成には試行錯誤を繰り返している。違う楽器をやってくれって言われてすぐに対応できる先輩たちはやっぱりすごい。

「二小節前から猫柳がタンバリンやってるから、それ目印にすれば大丈夫。一拍目だし、そんなに難しくないよ」

確かにリズムが複雑なわけでも、入りにくいわけでもない。四小節間、一拍目に全音符がひとつあるだけだ。周辺の拍子が5/8とか7/8とか8/8とか愉快な感じだけど。

「最初はあたしが合図出してあげるから。んじゃよろしくね」
「は、はあ……」

俺の手に楽譜を押し付けて菊池先輩は行ってしまった。……拒否権なんてなかった感じですか。





A・リード作曲「エル・カミーノ・レアル」より

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