▼ ひなと×真夏
「あ、雨」
集中力が途切れたのと、真夏の声が聞こえたのはほぼ同時だった。
「雨?」
振り返って窓へ視線を向ける。確かに雨が降っていた。
「傘持ってきてないや」
「天気予報で言ってなかったしな。朝は晴れてたし」
朝の天気予報では一日中晴れ、ところによって曇りで降水確率はゼロパーセントだったし、昼休みが終わる頃までは快晴で雨が降りそうな感じなんてまったくなかった。だから傘を持ってきていなくても仕方ない。
「じゃ、家まで送るよ」
「えっ?」
「傘、ないんだろ? 俺折り畳み持ってるし」
「そうですけど……」
どうせ真夏のことだから、このくらいの雨なら走って帰るって言うと思って。
真夏の煮え切らない反応は、俺に対する申し訳なさや遠慮からか、それとも一緒に帰ることが嫌なのか。……俺が嫌われてるとかじゃなくてね。嫌ってたらそもそもここには来ないだろうし。一緒に帰ってることがばれたらいろいろ面倒なんだよ。
「濡れて帰って風邪引いたら大変だろ?」
「私丈夫なのでその辺はたぶん大丈夫です」
「俺が許さない。会えないどころか姿も見られなくなったらやだし。……それに、雨の日って、傘の外は気にしてないもんだよ?」
濡れて帰って体調を崩したら大変だから、とももちろん思ってるけど、一緒に帰るチャンスを逃したくないっていう不純な理由もある。
いきなりぴたっと動きを止めて微動だにしない真夏が面白くて、笑いが出そうなのを堪える。
「……制服濡れたらめんどくさいのでお言葉に甘えます」
「ん」
折り畳み傘は、相合傘をするには少し小さいけど、二人の世界には充分だ。