SSS置き場 | ナノ


 連と弾

「猫柳だっけ、パーカスの、よくドラムやってるの」
「あのちっこい奴? そんな感じの名前じゃなかったっけ」

弾が他人の名前を口にするなんて珍しいこともあるものだ。連は名前ではなく特徴から適当にあだ名をつけて覚えているので、名前を言われても分からない。

「そう、小さいの」

弾も人のことは言えないので、小声でやや早口で。春に身体測定があった日に、彼が友人と話しているのが聞こえた数値よりは弾のほうが上回ってはいるが、どんぐりの背比べといったところだ。見た目上はほとんど変わらない。

「あいつがあんなに周りに持て囃されてる理由が、ぼくにはよく分からないんだけど」
「オレは好きだけどなー。あいつのドラムってテンション上がるし」
「……そう言うと思ってたよ」

個人の好みの問題だ、と言われればそれまでというのは分かっている。ドラムを含むパーカッションに限らず、遊び程度ではあるが管楽器や弦楽器もそれなりにできてしまうところに嫉妬している部分もあるだろう。サックスを究めたいという気持ちはあるが、いろいろな楽器に挑戦してみたいという気持ちも多少はある。しかし完璧主義ゆえに、やるからには中途半端は許せなくてなかなか手を出せないでいる。サックスだって、まだまだ究めることはたくさんある。

「テンポキープだって完璧にできてるわけじゃないし、特にテンポの速い曲だとアッチェレランドかけたり」
「それは先生が煽ってるとこもあるじゃん? 確かに速くね? って思う時はたまにあるけど、多少は仕方ないじゃん? メトロノームじゃあるまいし」
「そうかもしれないけど。あとダイナミックレンジも狭いよね。ほとんどフォルテかメゾフォルテじゃん」
「それはオレもポップスとかノリいい曲吹いててついつい全部フォルテ以上で吹いちゃうのあるしなー」
「……そうかもしれないけど」

兄の前では感情の制御がきかず、苛立ちが隠しきれない。いつもだったら、こういった愚痴に対しても、適当に返事をしている風でも、同意なり肯定なりしてくれるのに。床に大の字で寝転がる兄を横目に、つまらないといった様子で頬杖をつく。

「ていうかさ、いつも思うけど、弾きゅんってそこまで分析してるのすげーよな。オレなんかペット以外の演奏聞いたってすげー以外の感想出てこないし」
「……別に。専門外のほうが分かることとか気付くことってあるじゃん」
「まあそういうこともあるけどさー」

くるり。方向回転をして、連とは逆方向を向いた。

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