SSS置き場 | ナノ


 有牛と成子

「有牛せんぱいっ、有牛せんぱいっ!」
「ん?」

無邪気な声とともに腕をぐいぐい引っ張られ、有牛は足を止める。有牛がこちらに振り返ったのを確認して、成子は「あれ!」とはしゃいだ声を上げながら真っ直ぐ向こうを指さした。

「あれもトロンボーンですよね!?」
「そうだよ」
「見たことないけど、すっごくかっこいいなと思って! どこの会社のかなぁ……」

金色や銀色の楽器を持った、同じ制服を身にまとったどこかの学校の生徒が一ヵ所に集まっている後ろのほう。ひとりの男子生徒が持っているトロンボーンが、少し変わった形をしていた。有牛と成子が普段使っているものとも、学校にあるものとも違い、今までに見たことがない形だった。

「成子くんが使ってるのと同じ会社で出してるよ」
「そうなんですか!?」
「多分、最近出た新しいのだね」
「新しいやつかあ……すごいなー」
「っていうか、トロンボーン以外も新しめの楽器じゃん。まああの学校私立だしなあ。個人所有って可能性もあるけどね。どっちにしろすごいけど」
「そーなんですかー……」

なおも成子はそのトロンボーンに視線を向けたまま。その目はとても輝いていて、思わず有牛の口元が緩んだ。かと思えば、なぜか急にはっとして手に持っていた自身のトロンボーンケースを抱きしめる。

「でもでも! あのトロンボーンはかっこいいけど! やっぱりいちばんはとろろだよ! いろんなとこがへこんでたり、はげてたりするけど好きだよ!」
「それって褒めてるの? 貶してるの?」

とろろというのは成子が自身のトロンボーンにつけた名前だ。「トロ」ンボーンからつけたらしい。

成子がトロンボーンを大好きなのは、同じパートゆえに彼と過ごす時間が多いから有牛はよく知っている。

(俺、あのトロンボーンものすごく欲しいんだけど、成子くんの前じゃあ言えないよなあ)

第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -