SSS置き場 | ナノ


 連(と弾)

「今のところ、サックスだけで」
「はい」

サックスパートの人たちの返事が聞こえると同時に、連は構えていたトランペットを下ろした。

先ほど止められたところから数小節前に戻って、アルト、テナー、バリトンの順にひとりひとり確認をしていく。

管の中に溜まったつばを足元の雑巾に捨て、顔を上げる。視線の先は斜め前の、弟の弾。制服の白い半そでシャツから伸びている腕は細くて頼りなく、夏だというのに肌は白かった。
斜めに構えられたアルトサックスのキイの上を、白くほっそりした指が軽快に動く。速いパッセージももつれることなく、正確に拍を取って流れるように音が紡がれる。

人当たりのいい笑顔を貼りつけることは得意な弾だが、心からの笑みを浮かべたり、声を出して笑うということはほとんどない。昔からそうだった。
弾がにっこりと笑ってみせても兄の連から見れば、ただ貼りつけただけの笑顔なのか、心から笑っている笑顔なのかはすぐに分かる。

しかしすくなくとも、サックスを吹いている時の弾の顔は幸せそうだった。笑顔とまではいかなくても、愉快そうな表情をしている。
ここから見える横顔も、斜め後ろにいるせいでよくは見えないが、やはり楽しそうに見えた。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -