▼ 真夏と冬子
連絡もなしに家に押しかけることはないが、家が近いので約束をしていなくても一言連絡をして家に遊びに行くのは昔からよくあることだった。
「突然押しかけてごめんねぇ、暇だったからさ」
「私も暇だったし別にいいよ」
とは言うものの、真夏の部屋の隅にはミシンと丸められた布がいくつか慌てて寄せたように置いてあった。
真夏は多趣味で、漫画を読む、アニメを見る以外にもいろいろなことをやっていた。ハンドメイド、いわゆる手芸も趣味のうちのひとつで、洋裁や編み物なんかをたまにしている。
「なんか作ってたの?」
「特になにを作ってたわけじゃないけど……この間お母さんが片付けしてたら布を大量に見つけたらしくて、捨てるのももったいないからなにか作ろうかなぁって考えてた」
「確かに捨てるのはもったいないよねぇ」
ところどころ汚れがあったり、しわがよっていたりするが、どれもきれいな柄や色の布だった。使わないものを取っておいても仕方ないとはいえ、これだけの布を捨てるのは冬子ももったいないと思う。
「とりあえずシュシュを何個か作ってたんだけど」
「わ、かわいい!」
言いながらテーブルの上に転がされた、色とりどりのシュシュ。レースがついていたり、リボンがついていたりとひとつひとつ工夫がこらしてある。
「いいなーこの色私好き! リボンついてるのもかわいー!」
「大量に作っちゃったけどいる? 自分じゃ使わないし、欲しいのあったら持ってっていいよ」
「いいの!? 欲しい! やったー!」
手に取って目を輝かせている冬子を見て、真夏は不意にため息をひとつ。
「……なに? 急にため息なんかついて」
「自分で『いる?』って聞いておいてなんだけど、冬子ちゃんまとめるほど髪長くなかったなって」
「腕につけたりもできるじゃん! いいもん! 今度このシュシュ使って真夏の髪で遊んでやるんだから!」
「ごめんて」