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 鴨部と朔楽

「珍しいなぁ、鳩村くんができひんて」

鴨部に笑われて、朔楽はかぁっと顔が熱くなるのを感じた。俯いた朔楽を見て、すまんと謝って鴨部は再び笑う。

久しぶりに鴨部が部活に来て、しかも真面目にパート練習に参加しているせいか、先ほどから空回りばかりしていた。滅多に顔を出さないし、話をしたことはあまりないが、朔楽は鴨部のフルートが好きで憧れていた。

「鳩村くん、苦手なもんとかなさそうやと思ってたんやけどな」
「く、クラシックは……苦手で」
「俺も好かんわ。なんや、気ィ合うな」

鴨部がいるから、という理由もあるが、今練習している曲――クラシックが朔楽はどうも好きになれなかった。聞くのは好きだが、演奏するのは好きではない。

鴨部に同意されて、どきりと胸が跳ねる。

「ヴァイオリンをフルートでやれってどんな無茶振りやねん」

オーケストラの曲を吹奏楽用に編曲したもののほとんどは、弦楽器の旋律が木管楽器にまわる。
パッセージは苦手ではないのに、クラシックになるとなぜか途端に苦手になる。

「ヴァイオリンっぽく吹いてみ言われても、フルートは管楽器やし無理やっちゅーの」
「ですよね……あっちは弦楽器ですし……」

もともと原曲ではヴァイオリンの旋律を、それらしく吹いてといつだったか合奏の時に言われたことがあった。よく分からないまま吹いてOKをもらえたので、未だにこれでいいのか分からない。

「ま、できひんとこは適当にごまかせばええやろ」

膝にのせていたフルートを構え、鴨部の細長い指が銀色のキーをそっと押さえた。歌口に息を吹き込むと、出てきたのは聞き慣れたチューニングのベーの音。
鴨部の指が自在に動き、パッセージを奏でる様子に、朔楽はしばらく見惚れていた。

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