SSS置き場 | ナノ


 和希

右手を伸ばし、枕元に置いた自分の携帯を掴む。布団の中に潜り、電源をつけて時間を確認する。
眩しい画面に表示された時刻は、午前一時半。一瞬意識が飛んでいたような気もするが、かれこれ二時間は眠れないままぼーっとしていたらしい。

粘っても眠れそうにないので諦めて起き上がる。暗闇に慣れた目で部屋の中を見渡すと、敷かれている布団など関係なしに雑魚寝している先輩たちの姿が見えた。自分の頭があった場所の真上には奏斗の足が伸びてきており、本人はというと二つの布団にまたがるようにして大の字で寝ていた。「俺寝相悪いよ」と布団を敷きながら笑って言っていたが、大げさに言っているのではなかったらしい。

携帯と財布をジャージのポケットに突っ込み、好き勝手に寝ている人たちを踏まないように慎重にドアへ向かう。シーツを踏むかすかな音が、寝静まった部屋に響く。

薄明るい廊下に出て、ドアを後ろ手でしめながら和希は小さく息を吐く。

合宿の一日目の夜は、決まって眠れなかった。中学の時もそうで、いつもより長く厳しい練習で体は疲れているのに、どうしてか布団に入って電気が消えると目が冴える。そして二日目は寝不足で就寝時刻よりも前に落ちる。
眠らないと今日の練習がきついのは今までの経験で分かっているから避けたいとは思っているのだが、眠れないものは眠れないのだ。

小銭を投入する音、ボタンを押す音、選んだ飲み物が取り出し口に落ちてくる音が静かな空間に大きく響いて、誰か起こしてしまわないかと不安になる。
自動販売機の隣の小さなベンチに腰を下ろし、購入したばかりの冷えたミネラルウォーターを開けて一口含む。冷たいものが身体の中を下っていく感覚に余計に目が冴えた。

ぼんやりと薄明るい照明を眺めていてふと、先生が見回りに来ることを思い出す。はっとして腰を上げるが、とっくに終わっているだろうとすぐに思い直して再び腰を下ろす。

ここでぼーっとしていたってどうにもならないし、さっさと部屋に戻って目を閉じるのが賢明なのだろうが、横になって目を閉じたところで眠れるような気はしない。

(今日の練習はしんどいだろうな)

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