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 美琴と冴苗

「もうすぐ夏祭りだねー」

音楽室の壁にかけられたカレンダーを見て美琴が思い出したように言うと、隣の冴苗がだねーと間延びした声で相槌を打つ。

「今年は浴衣着るよね?」
「そのつもりだけど……」

美琴に顔を覗き込まれ、冴苗は目をそらして言葉を濁す。

かっこいい、男前だと一部の同級生から言われている冴苗だが、彼女も女の子であるからにしてお洒落には関心があった。美琴に言われなくても夏祭りでは浴衣を着るつもりだった。

「約束だよ?」
「う、うん……」

美琴が念を押すのには理由があった。去年も浴衣を着ていく約束をしたのに、冴苗が浴衣を着てこなかったのである。
しかしそれにも理由があって、妹たちに浴衣を着せていたら待ち合わせの時間に遅れそうになったため、仕方なく自分は浴衣を着ないで向かった。今でも後悔している。

「時間に遅れてもいいから着てきてね?」
「うん……今年こそは着たいし、そうする」
「やったあ」

はしゃいでぴょんとその場で小さく跳ねた美琴に合わせて、彼女の束ねている髪が揺れる。
去年、私服姿で待ち合わせ場所にやって来た冴苗を見た時も、冴苗よりも残念そうな顔をしていた。

「せっかく買ってもらったんだし着たいよね。浴衣なんて夏祭りくらいしか着る機会ないしねー」
「私もさなの浴衣姿見たい! 絶対美人だもん」
「みこには負けるよ」

紺色の花柄の浴衣に身を包み、髪をかんざしで結い上げている美琴の姿には、同性ながらドキドキしたのを覚えている。
自分も多少は雰囲気が変わるだろうか、と浴衣を着た自分を想像してみたが、浴衣を着ているだけのいつもの自分にしかならなさそうだった。

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