SSS置き場 | ナノ


 鳴海×律(大学生)

俺の部屋にはクーラーがない。おまけにめちゃくちゃこもるから夏は人を呼べない。俺自身何度か部屋の中で熱中症になりかけたからな。

とはいえクーラーのあるりっちゃんの部屋に入り浸ってるのも申し訳ないし、俺の部屋に来たいって言われたら断れない。俺の部屋に来ておもしろいのかどうかわかんないけど。暑いし狭いし散らかってるし。

「扇風機しかなくてほんとにごめん……」
「なんで? 節電になっていいじゃない」

うちわで扇いでるりっちゃんのおでことか鼻には汗がにじんでて、気ィ遣ってくれてるのが分かる。
窓は完全に開けてるけど風は大して入ってこない。さっき出したばかりの麦茶は氷がもうほとんど溶けていた。テーブルの上に水たまりができてる。

「それに僕、扇風機好きだし。扇風機に向かって『あー』って声出すの好きなんだよね」
「あー俺もよくやる! 今でもよくやるわ!」
「僕も僕も。楽しいよね」

扇風機に向かってしゃべるの、誰もがやるよな!
りっちゃんがやってるとこ、想像しただけでかわいい。

「子どもっぽいって笑われるかと思った」

そんなこと思うわけがない。だって絶対かわいいじゃん?
扇風機でなびく髪、垣間見えるおでこ、閉じた瞳に伏せられたまつ毛、風ではためくシャツ。想像しただけでやばい。

「やってもいい?」
「い、いいよ! もちろん!」
「ありがと」

そんなの、許可なんか取らなくてもいいのに。
早速りっちゃんは扇風機に向かうと「あー!」と声を出し始める。そして笑うりっちゃんを見てたら俺もやりたくなって、隣に並んで一緒に声を出す。いつも何気なくやってることなのに、りっちゃんと一緒だとなんかおかしくて。

扇風機にしゃべりかけて小一時間を過ごした、ある夏の日の話。

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