SSS置き場 | ナノ


 和希と鈴々依

「あっ狗井くん、おはよー」
「おっ、おはよう……ございます……」

今日は珍しく一番乗りかと思ったら、先客――百合根先輩がいた。ひょっこり準備室から出てきたからびっくりした。

ちなみにおはようって言ってるけど今は朝じゃない。朝だろうが昼だろうが夕方だろうが、一部の間ではなぜか挨拶は「おはよう」で統一されてる。

俺は百合根先輩が苦手だった。ティンパニはすげーと思うけど、人としては苦手。なんでって、自意識過剰だから。目が合ったり、声をかけたりしたくらいで舞い上がるんだもん、あの先輩……。そのせいで気ィ遣いすぎて疲れる。

トイレに行って誰か来るまで時間稼ぎするか、とは一瞬思ったものの、先輩を手伝わないわけにはいかない。百合根先輩も一応女子なわけで、ティンパニとかシンバルとか重いものを運ぶのは見てて大変そうだし……。

「先輩、それ、俺が持っていきます」
「へっ!? あ、ほ、ほんとに……? ありがとう、狗井くん」

今まさによろめきながらグロッケンを運ぼうとしてたもんだから、あぶなっかしくて見てられなくて声をかけざるをえなかった。グロッケンは見た目は重そうに見えないけど、実際鉄の塊だからかなり重い。シンバルもしかり。

とっさに声をかけたはいいものの、絶対勘違いされたな、今の……。もしかしたら百合根先輩の次に俺が音楽室に来た時点で、あの人の脳内ではストーリーが繰り広げられてたかもしれない。百合根先輩の勘違いポイントは俺の想像をはるかに越えている。

「おっ? 優しいじゃん、狗井」
「……こんにちは」

ああもう、菊池先輩までそういうこと言うのやめてもらえますか。ていうか、挨拶より先に言うことがそれですか。……ただ一番でかいティンパニ運んでただけじゃないですか……。

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