SSS置き場 | ナノ


 奏斗と音哉(大人)

「あーなにやろっかなー超悩む!」

台詞とは裏腹に、頭を抱えている奏斗の表情は幸せそうだった。

「やりたいのやれば?」
「やりたいのが多すぎるから悩むんだって!」

あーとかうーとか唸りはじめたかと思えば、顔をへにゃりと緩ませてうふふと笑いをこぼしてみたり。隣で忙しい幼馴染に音哉はやれやれと首をすくめる。

中学で吹奏楽部に入り、中学、高校、大学とパーカッション一筋でやってきた奏斗が、管楽器をはじめたいと言い出した。
奏斗は家も音楽一家で、持ち前の明るさと社交性から音楽関係の知り合いも多く、それなら中古の楽器を格安で譲ると言われ、本格的にはじめようと思ったわけだ。
今までずっと打楽器だったから、これから管楽器をはじめるとなれば選択肢は多い。

「奏斗って、なんでパーカスにしたの?」
「ん? なんでって、楽しそうだったから? ドラム叩けたらかっこいいじゃん? 前も同じこと聞かなかったっけ?」
「……それだけ?」
「それだけ、って……」

楽しそうだったから、楽器ができるようになったらかっこいいから。そういった単純な理由で吹奏楽部に入る人も少なくない。単純だけれどそれも立派な理由だ。音哉もどうして吹奏楽部に入ったのか、と聞かれたら同じ答えを返すと思う。
さらに突っ込んできたのはさすがは幼馴染といったところか。

「……まあ、ほんとは親とか親戚と比べられたくなかったからだよね」

ドラムに憧れたというのも本当だ。しかし本当のところは人と比べられたくなかったからという理由が大きい。
身内に打楽器をかじっていた人はいても、打楽器奏者はいなかった。だから打楽器を選んだ。

「比べるもんじゃないのにな。人によって音って違うもんだし」
「まあね。それが面白いとこなんだけどね。でも、近くにすごい人がいたら比べちゃうじゃん。俺はひとりっ子だけど、兄弟が頭よくて成績比べられるみたいなさ」

音哉の言うように、人によって音が違うというのもあるし、奏斗の親戚がそろって吹奏楽をやっているわけでもないのだ。オーケストラだったり、ジャズだったり、楽器をやっているという点は同じでも、ジャンルが違うのだから比べるのはおかしい。

「比べられるのは嫌だけど、やりたいこと我慢するのも嫌だしね」
「っていうか、お前らしくない」
「でしょ? ……でも、比べる人はいるだろうし、しんどくなる時もあるだろうけど、その時は音哉に慰めてもらうからよろしくね」
「いくらで?」
「ちょっとー幼馴染なんだからそこはさー」

嫌なことがあった時。つらくなった時。お互いに何度励まし合ってきただろう。時にはぶつかり合って喧嘩もした。
弱音や愚痴を吐いたり、本音を言い合って喧嘩したり。お互いにとってかけがえのない存在だった。

「そんじゃ、音哉たちとアンサンブルしたいし、まずは金管からはじめよっかな」
「オーボエじゃなくていいのか? やるならオーボエだって言ってたじゃん」
「ダブルリードはお金かかるから余裕が出てきたらにするよ」

もし管楽器をやるなら、木管楽器ならオーボエ、金管楽器ならホルンだといつか奏斗が言っていた。理由は、世界一難しい楽器としてギネスに載っているから。理由が奏斗らしい。

何の楽器をはじめるにしても、奏斗のことだからものにしてアンサンブルをする未来はそう遠くないだろう。悔しいような、楽しみなような。

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