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 連と弾

今日の部活は合奏がないのをいいことに、西高吹奏楽部の問題児、茅ヶ崎連と弾は準備室から出すだけ出して楽器はケースに入れたまま教室の隅に放置し、いつものように二人は堂々とさぼっていた。副部長の舞に見つかれば怒られるだろうが、二人がさぼっているのを見かけたらやんわりと一言注意する人は何人かいても、ほとんどの部員はもはや何も言わなかった。

「拍手しかもらったことない人ってかわいそう」

弾の声に連は両腕に埋めていた顔を上げ、眠そうな目で弾の姿を一目見ると大きな欠伸をひとつ。

「でもほとんどの人はあの沈黙を経験したことがないから仕方ないよね」

本当に素晴らしい演奏の後はまず人は沈黙し、その後耳が痛いほどの拍手が湧き起こり、さらに「ブラボー」の声が上がる。
中学生の時に連も弾も経験してきた。

「じゃあなんでここにしたのさ、がっこー」

二人が今通っているここ、西高はコンクールの成績から強豪と呼ぶ人もいるし、そうではない人もいる。弱くもなければ強いとも言えない、微妙なところだ。

連の問いかけに弾はうーんと少し悩んで、

「れんれんがいたから、かなぁ」
「そんだけ? 別に俺は関係なくね?」

れんれんというのは連が自らそう呼んでと学年性別問わず人に言っているあだ名で、年齢が上がりなんとなく兄と呼ぶのが恥ずかしくなって以来、弾もそう呼んでいる。

兄の連と同じ学校に行けと親に言われたわけではない。連も一度だけ同じ学校に来いと言ったことはあるが、強要した覚えはない。ここを選んだのは弾の意思だ。

「……あんまり大きな学校だとソプラノサックスなんて珍しくないでしょ」
「あーなるほどねー」
「あと遠い学校だと楽器持って行くの大変だし」

ソプラノサックスは弾の自慢だった。お年玉とお小遣いをこつこつ貯めて、それでも足りない分はテストを頑張ったからと両親に出してもらい、購入したもの。
教室の隅に佇む黒いケースには傷や汚れが見えるが、中の楽器は購入した当時の輝きを失ってはいない。弾が大切にしている証拠。

西高も二人のいた中学と同様に学校所有のソプラノサックスはなく、見学の時に先輩や同じく見学に来ていた同級生が好奇の目を向けていた。人に注目されるのが大好きな弾だから、思惑通り注目を集めた弾はそれはそれは嬉しそうだった。

「弾きゅんは誰かに必要とされたいんだよね」
「……なんでそうなるの?」
「ひとりじゃーできないのが吹奏楽なんだからさー、大丈夫だよ、弾きゅん」
「意味分かんないんだけど」

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