SSS置き場 | ナノ


 カノンと拓人

「ねえ兄さん」
「なんだ」

急に部屋にやってきたかと思えば勝手に本棚をあさって漫画を読み始めたカノンがふと自分を呼んだので、集中力が途切れて数学の問題を解いていた手を止める。

「オレ、オーボエ始める前はファゴット吹きたかったんだよね」
「あっそ」

なにかと思えば大した用事ではなく、世間話を始めたカノンに拓人は無愛想に返事を返す。

カノンが急に部屋にやってくるのはよくあることで、最初は怒っていた拓人もだんだんと面倒になってなにも言わずに好きにさせている。同じ家に住んでいて血のつながりもあるらしいといえど、あまり面識のない他人が同じ空間にいるとそわそわして落ち着かない。
最近はそれも慣れてきたとはいえ、カノンは自分がなにかしているところを見るのが好きらしく、時々視線がこちらに向けられていることもしばしばあり、そうなると余計に落ち着かない。帰れと言ったところで素直に帰る奴ではないので黙っている。

「一度試しに吹かせてもらったんだけど、指が覚えられそうになくて」
「運指が複雑とは聞いたことがあるな。一本の指で二つとか三つとかキーをおさえなくちゃいけないとか」
「そうそう」

ファゴットはカノンが吹いているオーボエと同じダブルリード式の楽器で、音域は中低音を受け持つ。オーボエと同じく吹奏楽ではオプションになっていることがほとんどで、大抵の場合なくても演奏に支障がないように編曲されている。
拓人の言うようにファゴットは運指が非常に複雑で、左手の親指だけで十個ものキーを、その他の指も基本的に二個か三個のキーを担当する。

ちなみにバスーンとも呼ばれほとんどの場合同じものだと説明されるが、バスーンとファゴットは微妙に違う楽器である。

「あとオーボエの方が持ち歩くのに楽だからね」
「……あっそう」

とはいえ楽器の大きさからしてもオーボエの方が小さいが、ファゴットも分解できるため金管と比べるとケースもそれほど大きくはない。

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