▼ 連と弾と律と奏斗
「あちぃ! プールに入りたいプール! あちぃ!」
「……れんれんのほうがよっぽど暑苦しいよ」
陽の当たらない床に大の字に寝転んで叫ぶ連に、気の早い暑さにやられている弾が弱々しく突っ込む。
「衣替えもまだなのにプールって、さすがに気が早すぎですよ」
「だってー暑いんだもーん」
律にもそう言われ、連はまるでスーパーのお菓子売り場で駄々をこねる小さな子どものように、その場で手足をじたばたさせる。そんなことをしているからなおさら暑いのでは、とはこの場にいる全員が思っていたが、口には出さなかった。
「あっ、んじゃプールってことで、あれやろうあれ!」
「あれ?」
かと思えば飛び起きて、わけの分からない台詞を言い残して自分の楽器を取りに教室を飛び出していった。音楽室に取り残された弾はやれやれと首を横に振り、律と奏斗は"あれ"とはなにかと顔を見合わせる。
「ぃよっしなんでもちび! ドラムよろしく!」
「えぇ……なんていう無茶ぶり……」
とは言いつつも、指名されたなんでもちびこと奏斗はドラムセットに移動して腰を下ろし、ハイハットでテンポを刻み始める。連がOKを出したテンポでハイハットを叩いていると、リズムに乗った連がトランペットを構え、イントロを吹き始める。瞬間、周囲からは「あー!」という声が漏れた。
連が言っていた"あれ"とは「シンクロBOM-BA-YE」で、この曲は映画及びドラマ「ウォーターボーイズ」で使用された挿入曲である。
この場に楽器がない者は三三七拍子を思わせる手拍子をはじめ、奏斗はリズムを刻み始め、律はチャイムに、飛び込みでやってきた美琴はピアノへと移動し、こうしてよくあるプチ合奏がはじまる。
ところどころ、連が見事なハイトーンを決め、バックの手拍子隊が拍手へと変わった。