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 鴨部と響介と有牛

 最近、調辺高吹奏楽部では、編み物が流行っているらしい。昼休みやちょっとした休憩時間に、毛糸を取り出して編み物をしている女子部員が見受けられる。

「なあ倉鹿野、毛糸少しくれへん?」

 と、思いきや、流行っているのは女子の間だけではないらしい。

 昼休み、かぎ針編みに夢中になっている響介に声をかけたのは鴨部。隣に腰を下ろし、響介が編んだモチーフを手に取る。

「あ、鴨部だ。うん、いいよー。好きなの持ってって」
「相変わらず器用やな、倉鹿野は」
「そーでもないよ」
「下手したらその辺の女子より女子力高いよね、倉鹿野って」
「有牛ってば……」

 そんな有牛も、かぎ針でひもを編んでいた。有牛にかぎ針編みを教えたのは昨日の響介だが、のみ込みが早く、話しながらも早いスピードでひもが出来上がっていっていた。

 好きなの持ってって、と言われたので、お言葉に甘えて鴨部はベージュの毛糸を手に取る。ものだけあっても意味はなさないが、カラフルな毛糸に囲まれて編み物をする響介は確かに女子力が高く見えるなと鴨部も思った。

「えらい大量にありますな」
「この間セールしてたからつい……。まあ、全部自分が使うんじゃなくて、鴨部みたいに欲しい人がいたらあげてもいいしね」
「で、鴨部は何編むの?」
「せやなぁ……二人は何編んでるん?」
「俺は音楽室にあるクリスマスツリーの飾りのつもり」
「俺は花のミニリースだよ」
「ほーん?」

 確かにかぎ針編みならちょっとした時間にできるが、あいにく鴨部は持ち合わせていないし――響介に言ったら貸してくれそうではあるが――、指編みでもするか、と先ほどもらった毛糸をほどき始める。

「菊池が頭の体操にとか言ってたけど、まだ早いよねぇ」

 しかし舞の言いそうなことだ。もし千鳥も始めるなら同じことを言いそうだな、なんて響介は勝手に想像してひとり小さく笑った。

「ま、ちょっとした休み時間にやるのはいいかもね」

 そんな会話をしているうちに響介は花の身にリースを完成させる。ひとつ作り終えたところだが、まだ作りたい。しかし、そろそろ午後の練習が始まる時間だ。

「そろそろ戻ったほうがいいんじゃない?」
「そうだね。じゃ、またね倉鹿野」
「ほな、俺もお暇するわ。毛糸おおきに」
「どういたしまして」

 二人を見送って、響介は先ほど編み終えたミニリースを眺める。これも音楽室に飾ろう。冬の寒い間の、いい暇つぶしになりそうだ。

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