▼ 律と奏斗と音哉と鳴海
今月末に行われる地元の小さなお祭りに、調辺高校吹奏楽部が出ることになった。
「マリンバやりたかったなー」
楽譜をめくりながら律が呟く。隣にいた鳴海が覗き込んでみたものの、パーカッションの楽譜とト音記号はやっぱりよく分からない。中学生の頃からずっとヘ音記号を読んでいたので、ト音記号はすっかり読めなくなってしまった。
野外での演奏の際に使用される鍵盤楽器は、比較的持ち運びの楽なグロッケンとシロフォンだ。場合によってはグロッケンのみの場合もある。少なくとも、よほどでなければヴィブラフォン、マリンバを使用することはない。
「俺もイージーでやりたかった〜」
「いやそれはダメだろ」
「ダメだよ」
「ダメに決まってんだろ」
律に乗っかって奏斗が冗談っぽく言うと、他の三人から総ツッコミを食らった。
この曲のドラムにはイージーとノーマルの二つの譜面があった。もともとパーカス内でドラムといえば奏斗だが、ほぼインテンポでかつ、源内先生の要望でノーマルの譜面を叩けるのは奏斗だろうということで、今回も奏斗になった。その名の通り、イージーのほうが簡単な譜面、ノーマルがイージーよりも難しい譜面になっている。
「っていうかさ、この曲ってオーボエソロあったじゃん。新宮やるのかな」
「さあ?」
「やるんじゃね?」
「でも新宮くんって、外で演奏する時はクラリネットに持ち替えてなかった?」
「あー……そうだっけ」
「んーと、確かフルートかサックスだったかな、代用は」
それを聞いた途端、音哉と鳴海は「あー」と声を上げる。
オーボエのカノンが今回もクラリネットに持ち替えかどうかは分からないが、サックスで代用がきくとなると、今回も弾がソロを持っていくのだろうか。まだ楽譜を渡されて間もないので、真相は分からないが。
星野源「アイデア」