SSS置き場 | ナノ


 詩宇と連と冴苗

「あー! れんちゃん先輩だー!」
「ん?」

 名前――というかあだ名を呼ばれて連が振り返ると、そこにいたのはサックスの江藤詩宇だった。今日もその小さな体に不釣り合いな大きな楽器ケース――中身はバリトンサックスだ――をうんしょうんしょと運んでいる。

「おー! しうしうじゃん!」
「そうですー詩宇ですー」

 連に気付いてもらえた詩宇はにぱーと笑う。
 そして詩宇が目の前に来ると連はうりうりと詩宇のほっぺたをこねる。

 連が名前を二回繰り返して呼ぶように、詩宇も名前の一部にちゃん付けで呼ぶのが彼女の癖だった。基本的には苗字なのだが、本人の希望によっては名前にちゃん付けで呼ぶこともある。連は本人が"れんれんと呼んでほしい"と常日頃、同級生後輩問わず言っていることと、同じ吹奏楽部内に兄弟の弾がいるため、れんちゃん先輩というあだ名になった。ちゃん付けはゆずれないらしい。

「れんちゃん先輩はー、今日は部活きますかー?」
「悩んでる!」
「そーですかぁ」
「……でも」

 ふと連はぴたりと動きを止め、かと思えばまた詩宇のほっぺをこねるのを再開する。今度は先ほどよりも距離を少し詰めて、なれなれしく。

「しうしうに来てってお願いされたら行くしかないな〜!」
「じゃあ来てくださいー!」
「……それ、あたしじゃダメなんですか?」

 デレモードの連と、されるがままの詩宇の前に現れたのは、榎並冴苗。連と同じトランペットパートの二年生だ。

「え? そんなことないよ?」
「でもあたしやぶっきーがお願いしても来てくれないじゃないですか」
「そうだっけ?」
「そうですよ」

 1stがいないと困るからと、冴苗や同じくトランペットパート一年の山吹が懇願しても、気が向かないとなかなか顔を出してくれないのがこの茅ヶ崎連という男だ。しかしサボっているのかといえばそうではなく、ただパート練習や合奏に混ざりたくないだけで、ふらっとどこかで個人練習やその時吹きたい曲を適当に吹いていたりする。

「でも今日は詩宇がお願いしたから来ますよね?」
「そうだなーしうしうのお願いだもんなー!」

 本当に来るかどうかはまだ分からないが、冴苗は連のデレデレ具合にため息をつくのであった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -