SSS置き場 | ナノ


 朔楽と鵜浦

「ねぇ、うららくん」

 日曜日の昼休み。フルートのパート練習に割り当てられた教室でひとり窓辺でぼーっと頬杖をついているうららこと鵜浦に声をかけたのは、同じフルートパートの朔楽。

「なんですか?」

 名前――というかいつものあだ名を呼ばれた鵜浦は顔を上げ、朔楽のほうへ向き直る。すると朔楽はひかえめに笑いかけてはい、と彼のフルートを手渡した。もう片方の手には、おそらく朔楽のだと思われるフルート。

「え、っと……?」
「よかったら僕と一緒に少し遊ばない?」
「……いいですけど……」

 突然楽器を手渡された鵜浦はきょとんとした表情でフルートと朔楽の顔を交互に見やる。めずらしい朔楽の笑顔に内心少しおどおどしつつも、暇だったのは事実なのでYESと答えてみる。

「じゃあこれ、ずっと繰り返し吹いてくれる? 苦しい時は上の音でもいいから」

 そう言ってまたまた手渡されたのは手書きの楽譜。鵜浦がそれに目を通している間に朔楽はその辺の適当な椅子を引っ張ってきて、鵜浦の横に置いた。

「分かりました」
「うららくんのタイミングで始めていいよ」

 朔楽が椅子に腰を下ろし、楽器を構えて準備ができたのを確認して鵜浦は先ほど手渡された楽譜の通りに演奏を始める。フレーズにしておよそワンフレーズ、一度吹ききったところで朔楽が音を重ねてきた。

(あ、なんか聞いたことある)

 ずっと繰り返しで、と言われたので自分の演奏に集中しつつも重なる朔楽の音にも耳を傾けてみる。その曲がパッヘルベルのカノンだと分かると同時に、余裕の出てきた鵜浦は目をそっと閉じる。

 高校からフルートに転向して、音を重ねたのはそういえば今回が初めてだった。中学生の時とは違う楽器になって、そうなれば必然的に全部ふりだしからはじめることになって。今までほとんどずっと基礎練習をしてきた鵜浦にとって、フルートで音を重ねる経験はこれが初めてで。

 自分は同じフレーズをずっと繰り返し吹いているだけだけれど、それでも音楽の一部になっている、それがうれしくて、音が重なるのが楽しくて。

「……めっちゃ楽しかった、です」
「よかった」

 自然と漏れた本音に、朔楽もつられて笑顔になった。

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