SSS置き場 | ナノ


 響介と美琴

「あ、花樹さんお疲れさま。片付けは俺がやっておくから、キリのいいところでやめて帰っていいよ」
「わぁ、もうこんな時間なんですねー」

 下校時刻十分前を知らせるチャイムが鳴ってようやくこんなに時間が経っていたことに気付く。ちょっと手伝ってもらうだけのつもりが、言い訳すると熱中してたせいで気付かずに長居させてしまった。本当に申し訳ない。

「片付け、私も手伝います」
「……いつもごめんね」
「いえいえ、楽しいので全然大丈夫です」

 正直ひとりでは完全下校時刻まで片付けが間に合いそうになかったので、申し訳ないと言っておきながらお言葉に甘える。下校時刻のチャイムが鳴るまでに鍵を返さないといけないと考えると、ちょっと間に合わないかな。とはいえ、最近は早めに部活が終わってるとはいえ、こんな時間まで付き合わせるつもりはなかったのに。

 今、俺と花樹さんがいるのは音楽室じゃなくて家庭科室。次の演奏会で使う衣装を作るのを、花樹さんに手伝ってもらっていた。花樹さんは手先が器用で家庭科が得意らしいから、よく彼女から自主的に手伝ってもらっている。手伝ってくれるのももちろんありがたいけど、女子の衣装を作ってもらえるのが本当にありがたい。だって、男の俺が細かくサイズを聞いたら失礼じゃん?

 ちなみに俺が衣装を作ってるのは、まあこういう作業は好きなのもあるけど、器用貧乏だからって理由で有牛に推薦されたからだ。ただし器用貧乏は器用貧乏だからなんとか形にするのが精いっぱいだ。それでもすごいってみんなは言ってくれるけど、花樹さんみたいに細かいところまできれいには作れない。見えないところなんかはごまかしてたりもするしね……。

「倉鹿野先輩ってほんと器用ですよねー。いろんなことできるの、すごいと思います」
「器用じゃなくて、器用貧乏なだけだよ」
「でもいろんなことできるのって、才能だと思いますよ」

 いろんなことができる、そう言えば聞こえはいいけども。でもきっと器用貧乏なだけなんだと思うんだよね……。高校でやっとホルン一本に落ち着いたとはいえ、高校から始めた楠瀬くん――まだまだ伸びしろはあるしね――や、小虎くん――小虎くんは中学でもホルンだったから上手いのは当然――のほうが上手だと思うしね。俺も頑張らないとなぁ。

「今年の新入生勧誘用のポスターもよかったですよ。私、すごく好きです。楽器描けるのってすごいと思います!」
「ありがとう。楽器は、まあ、うん、実物があるからね……見ながら描けばなんとかなるよ」
「それでもすごいですよ」

 ……花樹さんって本当、いい人だよなぁ。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -