SSS置き場 | ナノ


 有牛と凜と成子

「やばい。風邪ひいたかも」

 けほっと咳き込みながら羽柴が言う。朝、羽柴を見た時からなんとなくだるそうにしているなと思ってたけど、どうやら風邪らしい。

「大丈夫ですかっ? 羽柴せんぱい!」
「うーん……なんとかね……」

 と言いながらも机に突っ伏す羽柴は本当にやばそうだ。早退すれば? と俺が提案すると、速攻で「やだ」と返ってきた。それじゃあ練習もままならないだろうに。

「明日はちょうど休みだから病院行こう……明日のうちになんとかなるといいけど」
「無理しないでくださいねっ、せんぱい」
「ありがとー」

 鼻声だし、時々咳き込んでるし、早退して今日病院に行けばいいのに、とは思ったけど突っ返されるだろうからやめておく。
 少しして、よし、と気合を入れてそれでも楽器を構える羽柴。余計なお世話だけど、見ているこっちがつらい。

「あの薬出されないといいね」
「あの薬?」
「名前は忘れちゃったんだけど、音が全部半音低く聞こえる副作用がある薬があるらしいんだよね」

 噂に聞いただけで実際その薬を飲んだことはないし、つまりは経験したこともないんだけど、特にボントロ奏者には大変だろうなと思う。

「なにそれ、気持ち悪そう……」
「奏者としても致命的だけど、聞き慣れた日常の音――たとえば着信音なんかも低く聞こえちゃうからそうだろうね」
「えー……病院行くのやめよっかな」
「それはダメ」
「それはダメですよっせんぱいっ!」

 羽柴も立派なうちのトロンボーンプレイヤーなんだから、早く元気になってばりばり鳴らしてもらわないと。

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