▼ 鵜浦と朔楽
「そうだ、うららくん。はい、これ」
だからうららじゃなくて鵜浦ですってば、といういつものツッコミはさておき。
唐突に鳩村先輩から手渡されたのは、ちっちゃくて白い……あーあの、リコーダーの指引っかけるやつあったじゃん、あれっぽいやつ。あれとも形は違うけど、言葉じゃ上手く説明できない。
「なんですか、これ」
「ソレクサって言うんだけど、フルートにつけて使うもので、右手の親指のサポートをしてくれるんだよね。昨日偶然見つけたんだよね」
なんとなく予想はしてたけど、やっぱりフルート関連のものらしい。
「よかったら使ってみて。そしたらきっと安定すると思うから」
しっかし世の中には便利なものがあるもんだなぁ。いつも右手の親指の位置には悩んでたし、三点支持もいまだにできてなかったからこれはありがたい。
ちなみに三点支持っていうのは、口と、左手人差し指付け根と、右手親指の三つで楽器を支える、つまり支持すること、らしい。フルートの基本らしいけど、さっきも言ったけどおれはいまだにこれが苦手だった。
さっそく鳩村先輩の指導のもと、楽器に装着して構えてみる。……なるほど、これは安定する。がぜん楽器が安定するようになった。これならいい音出そう、とか言ってみる。
「よかったらしばらくそれ使ってみてね」
「いいんですか?」
「うん。うららくんさえよければ」
「や、おれはめちゃくちゃありがたいですけど……」
「それにうららくん、頭部管であれだけいい音出すんだもん、絶対そのうちいい音が鳴らせるようになるよ」
……鳩村先輩は、中二の夏からフルートを始めたらしい。だから、中一の頃からずっと続けてる梓や小虎なんかよりは、歴は浅いわけで。
それだけどあんなにいい音を奏でる先輩に、おれは同じ時間を費やしてもなれるだろうか。近づけるだろうか。
めずらしく笑顔の鳩村先輩からそれに目を落とし、銀色に輝くフルートをそっとにぎってみた。