▼ 楠瀬と鵜浦と朔楽
昼休み、フルートの音が聞こえて、あーこの音は楠瀬先輩のだなーと思ったら、音の主はやっぱり楠瀬先輩だった。なんてタイトルだったかは忘れたけど、確かこの曲はくるみ割り人形のなんかだったと思う。
前にも言ったと思うけど、楠瀬先輩は元フルートだったらしい。それで時々鳩村先輩のフルートを借りてはこうしていろいろと吹いてる。今はホルンだけど、こうして優雅にフルートを吹いてるのを見ると、どこか嫉妬してしまう部分がある。境遇が一緒だからなおさらなんだろうか。
「あ、うららくん」
「……ども、こんちは」
だから、うららじゃなくて鵜浦だってば。最近は先輩にまで浸透してきて、突っ込むのもちょっとめんどくさくなってきてる。
オレ、今はフルートだけど中学じゃユーフォだったんだよな。あとちょっとトロンボーンもさわってた。高校から違う楽器に挑戦するのもいいかもなとはちょっと思ってたけど、まさかフルートになるとはまったく予想してなかった。金管とフルートは似てるからいけるいける、って半強制的になってしまった。楠瀬先輩はその逆だったらしい。境遇が一緒なのはそういうこと。
フルートと金管の何が似てるって、マウスピースだけで音を変えることができるところだ。でも金管は上手い人はマッピだけでスケールができるけど、フルートはオクターブだけっていう違いはある。同じ運指で、息の圧力だけで音を変えられるところが似てるってことらしい。
「あ、朔楽くん。やっと戻ってきた」
オレもあんな風に吹けるようになりてーな、いつかはできるようになんのかなとぼーっとしてたら鳩村先輩が戻ってきた。
「ごめんごめん」
「じゃ、うららくんもいることだし、やろっか。三重奏」
「え? オレ? ……もですか?」
いやそんな当たり前じゃんみたいな顔されても。オレそこまでのレベルじゃないし……。
「や、でもオレ、まだそんなレベルじゃ……」
「大丈夫だよ。一緒にやろうよ。ね?」
「そんな深刻に考えなくても、ちょっと遊ぶだけだから」
「……じゃあ、ちょっとだけ、お願いします」
それでも、いちプレイヤーとして認めてくれるから、ここの吹部っていいなって思う。