SSS置き場 | ナノ


 奏斗と音哉

「うおー楽器がいっぱい!」

 そう言うなり、目的の楽器があるのか、それとも奏斗のことだから目的なんて決めていないのか、小走りで所狭しと楽器が並べられた会場内を駆けて行った。そんな奏斗の背中を見送りながら、音哉はやれやれとため息をひとつ。

「音哉くんも好きに動いていいからね」
「あ、はい」

 今日、奏斗と音哉の二人は、奏斗の母親に連れられて楽器祭りに来ていた。このイベントは定期的に開催されており、店頭で買うよりも少し求めやすい価格で楽器が購入でき、購入しなくとも様々な会社の楽器がそろっているので、好きなだけ好きな楽器を試奏できる、奏斗にとっては夢のようなイベントだった。

 早速トランペットを試奏している奏斗を横目に、音哉はまっすぐチューバが並んでいるブースへ向かう。いろいろな楽器が試奏できるといっても、やはり最初に気になるのは自分がやっている楽器。近くにいたスタッフに勇気を出して声をかけ、許可をもらって椅子を借りると持参のマウスピースを差し込み早速チューバを吹いてみる。聞き慣れた音程だが、いつも音哉が学校で使っているものとは違う会社のもののせいか、それとも値段のせいか、音が少し違う気がした。

「あっ音哉! チューバはもういいの?」
「一応一通り吹いてきたけど……お前は何個目?」
「んーと、最初トランペットやって、次にホルン吹いて……次はクラ? オーボエ? なんだっけ?」

 音哉が一通りあるチューバを全部吹いて奏斗を探すと、今度はフルートを吹いていた。……ふと気になって横目で見た値段は、見なかったことにする。

「音哉もなんか吹けばいいのに。せっかくだし」

 奏斗がフルートで適当にバラードを吹いているのを見ていたら、不意にそう言われて音哉は戸惑う。中学一年生の時、唯一音が出たのがチューバだったし、それ以来部活でずっとチューバを担当しているから、何かと言われても困るのが本音だ。

「ホルンとかどう?」
「マッピ小さすぎて無理」
「みんなそう言うけど、内径はホルンのほうが大きいし、伸ばすとチューバと同じくらいだし、大丈夫だって」
「何が大丈夫なんだよ……」

 と言いつつも、興味は隠しきれない音哉だった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -