▼ 響介と連
昼休み、準備室からトランペットの音が聞こえて、音色的に吹いてるのは連くんかなーと思って覗いてみたら、予想通りの人物がトランペットを吹いていた。
「おっ、影薄い副部長じゃん」
「やっ、やぁ」
邪魔するのも悪いなぁと思って静かにその場を離れようとしたら、ふと振り返った連くんと目が合ってしまった。……やぁってなんだろう。
ちなみに影薄い副部長っていうのは、連くんが俺につけてるあだ名。連くんは三文字以上の名前が覚えられないらしく、その人の特徴であだ名をつけている。影薄いのはその通りではあるんだけどね、うん……。
「個人練習?」
「んや? てきとーに吹いてただけ」
「……楽器の調子でも悪いの?」
「へ? なんで?」
よく見ると連くんが手に持っているトランペットはシルバーだった。いつも連くんが吹いてるのはイエロー。
「だって、いつもと違うの吹いてるから……」
「あぁ、これ? ここに眠ってたやつ引っ張り出してきた!」
誰がどの楽器を吹くかというのは決まっていて、楽器倉庫になっている準備室には、誰も吹かない楽器がいくつも眠っている。調子が悪かったり、どこか悪いところがあって修理に出さずにそのままになってる楽器もいくつかあるけど、充分に吹ける楽器もある。ただ、吹く人がいないだけで。
「楽器って吹くものだからさ、吹いてやらないとなんかかわいそうじゃん?」
「……確かにね」
「だからこうして時々てきとーに遊んでるんだよねー」
あははーと笑うと連くんはトランペットを吹くのに戻る。どうしようかな、と少し悩んで壁を背もたれに体育座りして、連くんの演奏を聴くことにした。
さっき、連くんが言ったことはもっともだと思う。もったいなくて使えない、っていう気持ちも分かるけど、楽器に限らず、用途が決まってるなら使ってあげるべきなわけで。
俺も今度、しばらく眠ったままのホルンを吹こうかな。そう思った、晴れた土曜日の昼下がり。