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 千鳥と結歌子といろは

「これ、どこで息を吸えばいいんだろ」

 楽器を膝の上に置いて、結歌子は大きく吸った分と同じくらいのため息をこぼす。
 千鳥はさあな、と肩をすくめ、いろはは相変わらず無言で練習をしていた。

 先日新しく配られたクラリネットの楽譜には、休みがほぼなかった。まったくないというわけではないが、小節単位の休みはない。

「作曲者は何を考えてこういう楽譜にするんですかねー?」
「……俺に分かるわけないだろ」

 行き場のない憤りを自分に向けられ、千鳥も結歌子と同じようにみけんにしわを寄せる。この曲は千鳥が作曲したわけではないのだから、そんな質問をされても困る。

「いろははどこで息吸ってる?」

 結歌子に尋ねられ、いろはは楽器を吹くのをいったん止め、結歌子のほうへ視線を向けて、無言で結歌子を見つめた後首を傾げた。パート練習をしていて、全員同じタイミングでブレスをすることは何度かあれど、たとえばこの後フォルティッシモが控えていたり、十六分音符でずっと動いている時など、結歌子にはいろはがひと息で吹いているように思えてならなかった。

「転パートしよっかなー」
「それはやめてくれ」
「えっ、千鳥センパイ、それって実は私のこと好きってことですか?」
「待て、どうしてそうなる。クラは人数が必要なパートだから、抜けられたら困るんだよ」
「そりゃそうですけどー、少しくらいのってくれてもいいのに」

 むぅ、と結歌子は口を尖らせるが、千鳥はもともとこういう性格だ。

「まあでも、橘の気持ちも分からんでもないな。最近はクラの楽譜は黒くしとけばいいみたいな風潮があるし」
「あーたしかに」

 五線譜にこれでもかと並んだ音をを指でなぞりながら、結歌子はふぅと小さく息を吐いて、練習を再開した。

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