▼ パーカス
「やっぱ百合根のティンパニってギャップあるよね」
「すごいですよね」
鈴々依がフラッシング・ウィンズの出だしのフレーズを叩き終わった後、腕を組んだ舞がぼそっと呟いた。うんうん、と鈴々依以外のパーカスがそれに同調する。
言われた本人はといえば、マレットを持った手を口に当て、少し戸惑った様子を見せた後、ぶんぶんとみつあみを暴れさせていた。
フラッシング・ウィンズはティンパニから始まる曲で、曲の頭ははティンパニしか音がない。つまりソロだ。そのティンパニが、フラッシングという曲名の通り、特に頭のファンファーレのティンパニは非常にリズミカルかつエネルギッシュで豪快だ。ならば適任はひとりしかいないと舞が鈴々依を指名し、本人もやりたかったらしく、やる気満々で引き受けた。結果、やはり彼女は期待を裏切らなかった。
和希からすれば、鈴々依のティンパニもすごいが、変拍子に動じない先輩たちもすごいと思う。和希はサスペンデッドシンバルをまかされているが、拍子が変わると5/4から3/4といった変化でも途中で分からなくなって、未だにパート練習や合奏の際に時々落ちる。
「でっ、でも、あの、スネアとか、ハイハットとか、常に刻んでてそっちのほうがすごいなって、私思います……!」
「そう?」
「そりゃ猫柳は慣れてるだろうけど、ハイハットは正直しんどい」
忙しく十六分音符を刻むハイハットを担当するのは舞。先述の通り、ティンパニは鈴々依にまかせるしかないと思ったし、スネアといえば奏斗だし、鍵盤といえば律だし、といつものように当てはめていった結果、残ったのがハイハットだったというわけだ。スネアと比べれば出番も少ないしと最終的にハイハットを担当すると言ったのは舞なのだが、源内先生に遅いと注意されることもしばしば。それでも、この曲はどのパートも大変だからと頑張っている。
「あたしも頑張らないとなー」
「俺もー」
「僕も」
「わっ、私も……!」
「……俺も」
「んじゃ、そろそろパート練習しますか」
「はい!」