SSS置き場 | ナノ


 音哉と奏斗

「よっし音哉! みかん食べて歯磨きしたら始めるぞ!」
「……あと一個食べたらな」

 さっきまであれだけ食ってたくせによく動けるよなと、準備をしに行ったらしい奏斗を横目に思わずため息を吐きながら、俺はみかんに手を伸ばす。……いつの間にか皮の山ができていた。その割にみかんが減ってないのは、減ってるのに気付くと奏斗のお母さんが追加してくれるからだ。ありがたい。
 まあ、人にあれだけ食ってたくせにとか言いながら、食後のデザートにみかん大量に食ってる俺もどっちもどっちだけどな。奏斗はあの小さい体のどこに入ってるんだろうっていつも思う。すき焼きの肉ほとんど食ってたし。

 ちなみにこれから俺らが何をやるのかというと、奏斗ん家で楽器の吹き納め兼吹き始めだ。別名年越し大合奏ともいう。世の中のなんとかはじめは普通一月二日に行われるものだけど、今日から明日、つまり大みそかから一月一日にかけてずっと楽器を吹くから気分的にそういうことにしといてくれ。

「音哉ぁ、まだ?」
「あと一個食べたらって言っただろ」
「さっきもそう言ってたじゃん! その間に二個は食べたでしょ!」
「んじゃあと三個」
「増えたし!」

 まだ腹が苦しいんだよって言おうと思ったけど、じゃあみかん食うなよって言われるだろうから言わないでおく。みかんは別腹だ。

 奏斗はその後しばらくはやくはやくと俺の腕を引っ張ってたけど、相手にせずに無心でみかんをむさぼってたらあきらめたらしく、俺の前に腰を下ろした。ひと息くらいつかせろっての。

「ねぇねぇ、今年は何演奏しながら年越す?」
「んー、そうだな……。お前は? なんかやりたい曲あんの?」
「うーん、特には思い付かないかなぁ。今年流行った曲はほとんど部活でやっちゃったし」

 今年はって言うからには、前にもやったことがあるわけで。事前にこれって決めてても、その練習に飽きて適当に遊んでたり、休憩がてらだべってるうちにもう過ぎてたりとかして、実際にその曲を演奏しながら年を越せたのは一回しかなかったりするんだけど。

「よし、そろそろ歯磨いてくるわ」
「お、いってら! んじゃ俺ウォーミングアップして待ってる!」

 ダッシュでリビングを出ていく奏斗の背中にまたため息をひとつ。まだみかんは食べ足りないけど、そろそろ動かないとまた奏斗がうるさいだろうし。
 どうせ今年も気が付いたら過ぎてるパターンなんだろうなとは思うけど、それも悪くない。

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