▼ 朔楽と鵜浦
「鳩村先輩、変なこと聞きますけど、何がなんでもこれだけは絶対にやりたくない! って楽器ありますか?」
「……それは、吹奏楽で使われる楽器で?」
「はい。まあオケでも別にいいですけど」
絶対にやりたくない楽器かぁ……。今思うとフルートも自分からは選ばない楽器だろうなぁ。でも、まったく音が出ない金管よりは木管を選ぶだろうけど、サックスはソロが多いし、オーボエは世界一難しいっていうし、ファゴットは運指表がわけ分からなさすぎたし……。かといって打楽器もできればやりたくないなぁ。だって、打楽器って一発一発が重要じゃない? それに、ドラムやティンパニがずれたら曲がおかしくなっちゃうし、どの楽器も責任重大だから、僕には絶対無理だと思う。合奏のたびにみんなに迷惑かけて、合奏なのに僕の個人練習になっちゃいそうだ。
「そんなに悩まなくても……」
「ご、ごめん……。ちなみに鵜浦くんは?」
「正直に言うとフルートです。っていうかピッコロですね。昔はホルンでしたけど」
あぁ、すごく分かる……って、僕が言うのは変かもしれないけど。僕もピッコロはあんまりすすんではやりたくない楽器だったりする。うちは基本的にフルートと持ち替えでやるからね。
「なんでピッコロってあんな目立つんですか?」
なんでって言われても、ピッコロはそういう楽器だから……としか僕には答えられなくて、返事に詰まる。
「でも、確かにピッコロはすごく目立つけど、フルートとトランペットだったらトランペットのほうが目立たない?」
「……そうですか?」
「あの音量は木管には出せないからね……」
フルートもトランペットも高音楽器だから、どっちも目立つのは当たり前で、五十歩百歩なんだろうけどね。でも、木管は金管の音量には絶対にかなわないし、特にフルートは木管の中でも音量が出ないから、そういう点ではトランペットのほうが目立つんじゃないかなぁと僕は思う。
「それに、トランペットって花形楽器だし」
「フルートも花形楽器じゃないんですか?」
「どうなんだろうね。僕もそう思ってたけど、木管で花形楽器っていうとサックスって人が多いような気がする。ソロが多いからね」
一応自分もフルートだから、自分で花形楽器っていうのもなんだけどね。そこは人それぞれだと思うけど、フルートはどうなんだろうね。