SSS置き場 | ナノ


 朔楽と鵜浦

 フルートは木管楽器だけど金管楽器に近い楽器らしい。フルートしか吹いたことのない、というかフルート以外はまったくできない僕には分からないし、説明されてもいまいちぴんとこないけど。

 だからいけるでしょ、と自分の意思で高校からホルンを始めたのが楠瀬くんで、先生の意思で半ば強制的にフルートになったのがうららくん――じゃなかった、鵜浦くんだったりする。中学の時は、楠瀬くんはフルート、鵜浦くんはトロンボーンだったとのこと。

「だからってホルン選ぶかなぁ、普通……」
「楠瀬くん、目立つのあんまり好きじゃないらしいから……」

 それもあるけど、消去法でそうなったのもあるんだよね。低音は全員経験者だったからすぐ決まっちゃったし。でも、楠瀬くんのことだから、きっとまたフルートになっても、今度はサックスやトランペットになっても、すんなり受け入れたと思う。

「オレ、友達にホルン吹かせてもらったことあるんですけど、ホルンだけは絶対自分には吹けないと思いましたもん。ホルン吹ける人ってなんなの? って思います」
「ホルンは世界一難しい金管楽器らしいしね」

 まあ、僕からすれば、ホルンに限らず金管を吹ける人は尊敬に値する。曲が吹けなくても、音が出せればもうそれだけですごい。一度だけ吹かせてもらったことがあるんだけど、マウスピースすら鳴らせなかった。

「でも、ホルンかフルートかって聞かれたらホルン選ぶかもです。音は出せるし。木管なんなの? 鳩村先輩天才ですか? こんなん無理じゃないですか?」
「いやいやいや……逆に僕なんかでも吹けるんだからそんなに難しくないよ? それに、少しずつだけど音がしっかりしてきてるし、もうちょっとだよ」
「よっしゃ褒められた! ……でも、褒められるのは嬉しいですけど、悪いところは悪いってはっきり言ってくださいね?」
「う、うん……」

 僕をじとりと睨むと、鵜浦くんは譜面台に乗せたスマホとにらめっこを再開する。スマホはインカメラになっていて、鏡の代用。いい音が鳴るポイントに自分で当てられるように、はじめての人は鏡を見てそれをつかむ練習をする。楽器にどう唇が当たってるかが自分じゃ全然見えないからね。頭部管は一発で鳴らせた鵜浦くんだけど、楽器となるとなかなか上手くいかないみたい時が多いみたいで、苦戦している。

 確かに僕は悪いところは悪いってはっきり言えない性格だけど、鵜浦くんが毎日少しずつ上手くなってるなぁって思ってるのは本当。僕が吹奏楽部に入ってフルートを始めた時、中途半端な時期に転部したせいで、コンクール前の大切な時期に僕の練習に付き合わせてすみませんって先輩に言ったら、僕がだんだん上達していくのが見ててこっちも嬉しいからって言われたんだけど、今ならあの先輩の気持ちがよく分かる。

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