SSS置き場 | ナノ


 結歌子と美琴

「花樹ってさー、ちょっと美人だからってなんか調子に乗ってね?」
「あー、なんか分かる気がする。この間隣のクラスの奴が告ったらそっこーで断ったらしいし……」
「は? またかよ! これで何度目だよ……。ちょっと美人だからってお高くとまってるよな、あいつ」
「な。見た目はいいかもしんねーけど性格ブスだよな」

 うーん、嫌なところに出くわしてしまった。しかもなーんで運悪く音楽室に行く廊下の途中でたむろってるかなー。
 私だって人の悪口は時々言うけど、他人が自分の知ってる人の悪口を言ってるのって、聞いてて気持ちのいいものじゃないよね。だからといって、人の悪口を言うのはよくないですよ、なんて面と向かって言う勇気もなければ、あそこを素通りできる勇気も私にはなかったりするんだけど。せいぜい心の中で性格ブスはどっちだって突っ込むくらい。

「あれ、結歌子ちゃん?」

 どうしたものかと悩んでたら、まさかのご本人登場。心臓が口から飛び出すかと思った。

「はっ、花樹センパイ! こっ……こんにちは」
「これから部活に行くところ?」
「あ、はい……そうです」
「じゃあ一緒に行こうよ」
「あっ」

 そう言うなり花樹センパイはすたすた歩きだす。音楽室――あの人たちのほうへ向かって。
 あの人たちはまだ花樹センパイの悪口で盛り上がってたけど、花樹センパイが歩いてくるのに気付いてあわてて悪口を言うのをやめる。私に声をかけてきた時は聞こえてなかったとしても、さっきのはよっぽど耳が遠くない限りは絶対聞こえてたよね。ばっちりセンパイの名前も出してたし、自分の悪口って妙に耳にとまるし。

「あんなの、言わせておけばいいの。付き合ってた人がいたらいたで、今度は尻軽女とかなんとか言うんでしょ?」

 気まずくて、うつむいて目を泳がせてたら、ウェーブのかかった髪をふわりと舞わせて花樹センパイが振り返る。

 あの花樹センパイがさらっとすごいことを口走ったような気がするけど、それはおいといて、それもそうだ。美人は美人で大変なんだろうな。

「結歌子ちゃん、やさしいんだね。私の悪口を言ってるの、知ってたから引きとめようとしてくれたんでしょ?」
「……何もできなくてすみません」
「いいのいいの。……でも、さっきはあんなえらそうなこと言ったけど、自分の悪口を聞いちゃうとちょっとへこむよね」
「花樹センパイ……。私が後輩じゃなかったらぎゅってしてあげたいです」
「ほんとー? 結歌子ちゃんにぎゅってされたら元気出るんだけどなー? ダメ?」
「私でよければよろこんで!」

 花樹センパイが告白を断ってるのは、部活に青春をささげたいから、って前に言ってたけど、高身長イケメンに生まれてたらがんばって彼氏になりたかったかもしれない。

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